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『えっと……おかえり?』
「まあ……」
私たちの間では珍しく、微妙な間が生まれる。
お互いに、何と言うのが正しいのかわからなかった。
七海が戻ってきた。
そう、呪術師に。
いわゆる脱サラとかいうやつ。
経緯は聞いた。
それに、私たちは隠し事はしないし、結構何から何まで話していた。
だから七海の気持ちの変化を、突然だとは思わなかった。
「労働もクソだった」
『呪術師は?』
「クソ」
『あは、世の中大変なんだねぇ』
かつて七海が呪術師はクソだと言った時、面白くて笑ったのはそうだけど、たぶん的を射ていたからというのもあると思う。
だけど労働がクソだというのはよくわからなかったから、真面目にそう言う彼がおかしくて、また笑ってしまった。
呪術師も、一種の労働かもしれないけれど。
過去の私の言い分なら、七海が戻ってきたことを残念がるのが正しいだろう。
それでも私は嬉しいと思ってしまった。
いつ死ぬかわからない地獄に戻ってきたことを、喜んでいるのだ。
教師になって、忙しさが増して、寂しさは紛れていた。
五条さんの絡みもだいぶしんどいし。
それでも一人になるとふと、学生の頃を思い出してしまった。
なんとなく心細くて、じっとしていられないことは何度かあった。
『今日の夜、時間ある?』
「時間ならいくらでも」
『じゃあ、ご飯でも食べに行こう。もちろん私の奢りでね、お祝い的な』
「お祝いって……」
時間がないのはそっちだろう、と言われて親指を立ててみる。
実際時間なんて足りないことが多い。
だけど今日に限っては有り余っていた。
いつの間にか五条さんに頭が上がらなくなっている事実が少し怖かったりもするけど。
お祝い、という言葉は合っているだろうか。
この場合は何のお祝いなのだろうか。
というか祝っていいのだろうか。
そんなことを考えても、私の心は少し浮かれている。
嬉しくて、嬉しくて、仕方がない。
『たぶん私、ずっと七海を待ってたんだと思う』
「私も待たれてる気はしていた」
『なにそれ、怖』
待っていた、七海が戻ってくることを。
それを見抜かれていたのは予想外だったけど、理解してくれていたことがまた嬉しかった。
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灰原へ。
七海が戻ってきた。
また一緒に呪術師としてやっていけることが嬉しいと思ったよ。
ずっと連絡は取っていたけど、直接会ったのは久し振りで、なんだか凄く懐かしい感じがした。
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九鬼青蓮 - 感動しました。心理描写が丁寧で、心を打たれました。素晴らしい作品だと思います。 (2022年4月10日 23時) (レス) @page12 id: 8f571d995d (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - すごく感動しました。大好きです (2022年1月4日 1時) (レス) @page12 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。ありがとうございます (2020年12月16日 2時) (レス) id: 23cfa4baa4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2020年12月15日 22時