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皮肉の意味を知っているだろうか。
そう、皮肉。
あの、皮肉。
『ななみ、私ね、人が、嫌いだったの』
人が嫌いだ。
今も変わらず、ずっと嫌いだ。
それなのに今、私は人を庇った。
そうして全てを失うところだ。
皮肉なことに。
以前の私なら、見知らぬ誰かが巻き込まれることをどうとも思わなかっただろう。
それでも今の私は、無意識に人の盾になってしまった。
なってしまったなんて言い方をしたけれど、後悔はしていない。
私のできることは、呪いを祓って弱き者を守ることだった。
だから、できることを精一杯やった。
それが心地よかったかは、今でもわからない。
痛みはなかった。
いや、痛すぎてわからないのかもしれない。
恐怖もなかった。
それは、七海が抱き寄せてくれるからかもしれない。
いつも怯えていたのは、七海を失うことだった。
それなのに、まさか私が先になるなんて。
考えてもいなかった事実に、笑ってしまう。
「……知ってた、そんなこと」
『うふふ、だってみんな、私が強いって、言うから』
「実際、Aは強かっただろう」
硝子さんの治療が間に合わないことを七海は悟っている。
だからずっと、側にいてくれるのだろう。
強い自分が嫌いだった。
それでもそんな自分を受け入れられるようになっていた。
私は特級術師。
一番上の等級で、一番強いとされる呪術師。
でも、その特級の中で、私は一番弱い。
強さを嘆いたことはあった。
だけど弱さを嘆くのは、これが最初で最後だろう。
『ななみ、強くなれなくて、ごめんね』
普通に憧れたことがあった。
悪い言い方をすれば、弱さに。
普通であれば嫌な思いをしなくて済むと思っていた。
現実は、違っていたと思う。
私が弱かったせいで、七海を傷つける。
ちゃんと友になれていたかはわからないけど、友人を二度も見送るのは、彼も堪えるだろう。
死にたくない、今になって思う。
七海、ごめん。
七海、許して。
『人は嫌い、でも、ななみは、すきだった』
「A……」
『しあわせに、なって……ななみ……』
先に逝くことを許してほしい。
辛い思いをさせることを許してほしい。
でも、本音を言うと。
七海より先に死ねて良かったと思う。
七海を失うことがなくて、良かったと思う。
ごめんね、七海。
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灰原。
七海がたぶん、泣いていた。
私が泣かせたんだと思う。
怒っていたかな。
いつか、謝れる日がくるかな。
また、会える日がくるかな。
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九鬼青蓮 - 感動しました。心理描写が丁寧で、心を打たれました。素晴らしい作品だと思います。 (2022年4月10日 23時) (レス) @page12 id: 8f571d995d (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - すごく感動しました。大好きです (2022年1月4日 1時) (レス) @page12 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。ありがとうございます (2020年12月16日 2時) (レス) id: 23cfa4baa4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2020年12月15日 22時