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「おめでとう、A」
『ありがとう、七海』
特級術師になった。
我ながら、はやかったと思う。
だけどそう、あんまり。
『あんまり、嬉しくないなぁ』
何故か、あまり嬉しくなかった。
いや、何故かなんてわかりきっているだろう。
一級術師と二級術師。
特級術師と二級術師。
差が広がった。
灰原と私の差が、また広がった。
いつか追いつくと言ってくれたのに。
私は彼を置いていくしかない。
彼は私を、置いていった。
どことなく、寂しさを感じる。
昔みたいに、強さを憂いたわけではない。
過去と、思い出と離れるのが悲しかったのだ。
私が進む先に、灰原はいない。
私たちが歩む隣にも、彼はいない。
私も七海も、今年で灰原と歳が離れる。
彼と、全てが離れていく。
もう、声が思い出せない。
何度も何度も、私を呼んでくれたのに。
私の中で灰原が色褪せていく。
「喜ぶことも、大切だと思う」
『大切、ね……』
灰原が強くなりたいと言っていたから?
そんなこと、言えやしないのだけど。
強さは武器だ。
私も、そう思う。
自分にできることを精一杯頑張るのは気持ちがいい。
それは私には、わからないかな。
自分にできることは何だろう。
七海はきっと、色んなことができる。
でも私には、呪いを祓うことしか能がない。
結局、呪術師であることしか生き方を知らない。
『七海、ケーキでも食べに行こうよ』
「ケーキ? 何故?」
『お祝い。私の、昇級祝い』
特級だよ、特級。
なりたくたって、なれるもんじゃないよ。
そう、言い聞かせる。
私は凄いことを成し遂げた。
血統にも頼らず、自らの力のみでここまで上ってきた。
努力したんだ、それなりに。
「お祝いなら、奢る」
『ホント? やったぁ』
「あぁ」
『どんなのにしよっかなぁ』
喜ばないとバチが当たる気がして、喜んでいるふりをした。
そう振舞っていることを、七海はたぶん、わかっていただろう。
核心に触れて来なかったのは、七海も同じだったからだと思う。
あの日止まってしまった灰原の時間と、動き続ける私たちの時間が次第にズレていくことにやるせなさを感じていたからだと思う。
朝日を浴びて、目が覚めて。
私たちはまた、今日を生きた。
.
灰原へ。
私、特級術師になったよ。
君よりもまた、強くなっちゃったね。
お祝いに、七海がケーキを奢ってくれた。
欲張ってホールケーキなんて食べたから、少し胸焼けがしたよ。
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九鬼青蓮 - 感動しました。心理描写が丁寧で、心を打たれました。素晴らしい作品だと思います。 (2022年4月10日 23時) (レス) @page12 id: 8f571d995d (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - すごく感動しました。大好きです (2022年1月4日 1時) (レス) @page12 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。ありがとうございます (2020年12月16日 2時) (レス) id: 23cfa4baa4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2020年12月15日 22時