検索窓
今日:9 hit、昨日:10 hit、合計:45,515 hit

ページ5

.



「おめでとう、A」

『ありがとう、七海』



特級術師になった。
我ながら、はやかったと思う。

だけどそう、あんまり。



『あんまり、嬉しくないなぁ』



何故か、あまり嬉しくなかった。
いや、何故かなんてわかりきっているだろう。

一級術師と二級術師。
特級術師と二級術師。

差が広がった。
灰原と私の差が、また広がった。

いつか追いつくと言ってくれたのに。
私は彼を置いていくしかない。
彼は私を、置いていった。

どことなく、寂しさを感じる。
昔みたいに、強さを憂いたわけではない。
過去と、思い出と離れるのが悲しかったのだ。


私が進む先に、灰原はいない。
私たちが歩む隣にも、彼はいない。

私も七海も、今年で灰原と歳が離れる。
彼と、全てが離れていく。

もう、声が思い出せない。
何度も何度も、私を呼んでくれたのに。
私の中で灰原が色褪せていく。



「喜ぶことも、大切だと思う」

『大切、ね……』



灰原が強くなりたいと言っていたから?
そんなこと、言えやしないのだけど。

強さは武器だ。
私も、そう思う。

自分にできることを精一杯頑張るのは気持ちがいい。
それは私には、わからないかな。


自分にできることは何だろう。
七海はきっと、色んなことができる。
でも私には、呪いを祓うことしか能がない。

結局、呪術師であることしか生き方を知らない。




『七海、ケーキでも食べに行こうよ』

「ケーキ? 何故?」

『お祝い。私の、昇級祝い』



特級だよ、特級。
なりたくたって、なれるもんじゃないよ。
そう、言い聞かせる。

私は凄いことを成し遂げた。
血統にも頼らず、自らの力のみでここまで上ってきた。
努力したんだ、それなりに。



「お祝いなら、奢る」

『ホント? やったぁ』

「あぁ」

『どんなのにしよっかなぁ』



喜ばないとバチが当たる気がして、喜んでいるふりをした。
そう振舞っていることを、七海はたぶん、わかっていただろう。

核心に触れて来なかったのは、七海も同じだったからだと思う。
あの日止まってしまった灰原の時間と、動き続ける私たちの時間が次第にズレていくことにやるせなさを感じていたからだと思う。

朝日を浴びて、目が覚めて。
私たちはまた、今日を生きた。





.



灰原へ。

私、特級術師になったよ。
君よりもまた、強くなっちゃったね。

お祝いに、七海がケーキを奢ってくれた。
欲張ってホールケーキなんて食べたから、少し胸焼けがしたよ。

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (246 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
78人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 灰原雄 , 七海建人
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

九鬼青蓮 - 感動しました。心理描写が丁寧で、心を打たれました。素晴らしい作品だと思います。 (2022年4月10日 23時) (レス) @page12 id: 8f571d995d (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - すごく感動しました。大好きです (2022年1月4日 1時) (レス) @page12 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。ありがとうございます (2020年12月16日 2時) (レス) id: 23cfa4baa4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ろろみや。 | 作成日時:2020年12月15日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。