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ガツガツ、と驚異の食欲。

目の前で米を掻き込む敦を、Aは頬杖をついてぼんやりと眺めていた。
一体その身体のどこに入っていっているのだ。


『なぁ少年。本当に茶漬けなんぞで良かったのかい?』

「Aちゃんが提案したんでしょ」

『ちゃんも要らない。気持ち悪い』


何がそこまで嫌なのか、Aは先に言ったように、敬称をつけられることと敬語を使われることを極度として嫌った。

話をしたところ、彼女は十九。十八の敦より一つ年上だが、だから何だというところだ。

命を救われたからとはいえども、お礼の品を持参して探偵社を訪れるわけではなく、こうして本人の願いを叶えると言う。
それに三つも。

どれだけの恩がそこにあるのか、本人のみぞ知ることだろう。


『二つ目の願いは明日聞くよ。寝る前にでもよく考えておいてくれれば良いさ』

「と言われてもあんまり思いつく気がしないんだけどね」

『無欲恬淡な人だね、君。茶漬け以外には』


一個、二個とまた茶碗が積まれていく。

別に金額を気にしているわけではないけれど。
Aは少し財布の中身が心配になった。

どうやら彼、本当に腹一杯食べるらしい。


「あ、そうだ」

『どうした?』


もぐもぐとしながら、敦は思い出したと声をあげた。

とりあえず茶碗を置けとは思ったが、Aは口にはしなかった。
これでこそ彼である気がしたから。


「星を見に行きたい!」

『……星?』

「ほら、夜空に広がってる星だよ」

『いやね、それは知ってる』


茶漬けの次は星。
地味、というか、単純、というか。
とにかく叶えやすい願いだ。

Aにしては折角願いを叶えると言ったのだから、もっと欲に従順なものを願って欲しい。
まあ、彼がそれが良いと言うのだから断る理由もないのだけれど。


『じゃあ、それが二つ目の願いでいいんだね?』

「いい場所知ってたりするの?」

『……心当たりがなくはない』


窓からまだ青い空を見て、珈琲を啜る。

心当たりがあると言っても、彼女に星を見る趣味はない。
正直どこから見ても星は星だろう、と言うような人間だ。
だからあまり自信はない。


『それなら明日は日が暮れる頃に、会いにいくよ』

「待ち合わせは?」

『必要ない。大体わかるから』


満足したと思われる敦を連れて、店を出る。

またね、と手を振って別れたけれど、思えば明日も会うのだった。
まるで昔からの友達のようで、居心地は悪くなかった。

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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時

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