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「……死ぬのは、怖くないの?」
『死んだら星になるんだ。空の上から君のことだって見える。だから怖くないし、寂しくもないよ』
単純で、当たり前の問いだった。
だがAは、その言葉に笑って答えた。
強がっていたわけではなく、純粋に。
話辛いわけではないけれど、少しだけ取っ掛かりにくい話し方をするA。
そんな彼女が似合わないロマンチックなことを言うから、敦もほんの少しだけ笑えてきた。
「意外とロマンチストなんだね」
『うふふ、まあね』
小さくだったが、敦の表情が緩んだことが嬉しかったのか、Aは目を細めていた。
「ちゃんとここに手を合わせにくるから、毎日」
『暇なときだけでいいよ。だから鏡花さんと来てね』
「うん、約束する」
軽い指切りをして、約束をする。
親と子がするような、そんな優しさに包まれて。
「あのさ、A。結果として未来の僕は殺されてしまったけど、僕は君を愛していたと思うよ」
『どうしてそう思う?』
「だって……僕だから」
『ふふ、君が言うならそうなんだろうね』
唐突な話だったし、今と未来の敦は同一人物ではない。
だから本当ならば信じがたいことなのだろうけれど、どこか説得力があった。
彼なら、本当にそう思ってくれていた気がした。
『ねぇ、少年。私、父さんに言えなかったことがあるんだけど、君に言ってもいいかな』
「うん」
今度は逆に、Aが変なことを言った。
だって彼は父ではないのに。
だけれどこれも、これでいいのだ。
『鏡花さんを殺してしまってごめんね。貴方を殺してしまってごめんね。
たくさん愛してくれてありがとう』
「……大丈夫。大丈夫だよ、A」
抱きしめられた暖かさに、少しだけ泣きそうになった。
忘れていた父の匂いがした。
聞き慣れたフレーズが、頭の中で木霊していた。
『未来を奪った私が言うのは間違いだって知ってる。でも、父さんの未来に幸があるように、ずっと祈ってるから』
話し方のニュアンスが、変わったように感じた。
少しだけ幼く、子供のような響きを持っているような気がする。
抱きしめ返したその腕は、敦よりもいくつも細くて弱そうだった。
『……さよなら、父さん』
「……さよなら、僕の愛娘」
もうすぐ彼女は消える。
何も残らず、元からいなかったかのように。
それでも敦は言うだろう。
彼女は自分が心から愛した娘であり、
中島Aである、と。
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砂木雲雀 - 感動しました…!久しぶりにとってもいいお話を読めた気がします。ありがとうございましたぁあ…!!! (2019年6月23日 14時) (レス) id: f363e24a01 (このIDを非表示/違反報告)
真綺 - めっちゃ感動しました!! ありがとうございました!! (2019年6月23日 13時) (レス) id: 06efcbf80c (このIDを非表示/違反報告)
柊まふ(プロフ) - とても 泣きました……!神作品を、ありがとうございます (2019年6月23日 12時) (レス) id: 9a5360aa7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろろみや。 | 作成日時:2019年6月23日 2時