【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ9)

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ぞむ。…ぞむ。
どういう意味かな。顔？鼻？それとも他の何か？
じっと真意を探るべく彼の瞳を見つめる。
すると彼は次は自身の胸元に手を当てて、同じように口を動かした。

「ゾム」
『……ぞむ』

ぞむ。ぞむ。……ゾム。
顔じゃない。鼻じゃない。
…じゃあ、もしかしてこれって…。
私はバッと顔を上げた。

『ゾム！…あなたのお名前は、ゾムって言うのね！』

手を取って、興奮気味に彼に詰め寄る。
どこか嬉しそうにはにかんだ彼は、まるでそうだとでも言うかのように頷いた。

「―――？」

彼が何かを言って首を傾げる。
言葉は全く通じない。だけど、何となく。

彼は私の名前を聞いているんだろうな、と思った。

『A』
「………A」
『A』
「A！」

コツンと額を合わせて、彼は笑う。

…ニンゲンってこんなに暖かい生き物なのね。知らなかった。
優しい色をした新緑が細められたのを見て、私も思わず口元が緩む。

ぞむ。…ゾムくん。
私の、初めての、ニンゲンのお友達。

『えへへ、』

胸の奥が、じんわり暖かくなった気がした。

*°

「俺は海賊なんや」
『おれはかいぞくなんや？』
「俺、海賊」
『おれ、かいぞく』
「…ゾム、海賊」
『ぞむ、かいぞく……ぞむ、は、かいぞく！』
「せや！」

…可愛い。

無邪気に笑う目の前の少女を見て、俺はしみじみとそう思った。

足の代わりに生えた桃色の尾びれ。
日焼けなど知らぬ雪のような肌。
嬉しそうに細められる大きな瞳。

所謂世間では「人魚」と呼ばれるであろう彼女は、俺の命の恩人である。

細かい経緯は省くが、ガバって海賊船の甲板から落っこちた俺をわざわざ助けてくれたのが目の前の彼女だ。

彼女の姿を始めて見た時の俺の衝撃はそれはそれは凄まじかった。今ではもう見なれたものだが、やはり存在しないと思っていた生物がいざ目の前に現れると、誰だって困惑してしまう。あの瞬間は今でも鮮明に思い出せるくらいだ。

『ぞむ、かいぞく！ぞむは、かいぞく！』

無邪気に笑う目の前の少女。
…あぁ、可愛らしくて、愛しくて仕方がない。

透き通るような髪の毛を掬い、俺は小さく微笑んだ。