【d!】さざ波が立つ【合作企画】 (ページ22)

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青空が彼をさらう。───いや、もしかすると青海が彼をさらったのかもしらない。事実なんて誰にも分かりやしないのだ。

　彼と過ごした数々の夏。

あの潮の匂いは、私が一番好きな匂い。

笑い声の絶えぬ流し素麺は今でも大好きな思い出だ。

そして、夜空の下で伝えてくれた彼の言葉を、忘れることなんて出来やしない。

「また、来年の夏に行きたいとこあるんすよ」

　目蓋を閉じれば思い出すのは彼ばかり。

ねぇ、ショッピくん。
もう一度、たったの一度だけでいいの。

青に囲まれたあなたが見たい。

指先に触れられなくてもいい。
声を届けられなくてもいい。

あなたが「夏っすね」って呆れながらに笑うところが見たい。

　でも、それはもう得ることのない未来だと知っている。温かい思い出を胸に残して私はゆっくり瞬く。

「……私ね、夏が好きよ」

　ショッピくんの好きな季節。
　私と彼が出会った季節。
　彼を失った季節。

　残念ながら彼に一番似合う季節とは言えないけれど、似合わぬ夏を楽しみにしていた彼の横顔は誰よりもかっこよかった。大切な思い出を、彼のくれた夏を、そんな季節を愛して、私はもう一回……もう一回だけこの夏を楽しもうと思うのだ。

　目の前の海が、青の上に白を重ねて私の足元を濡らした。

「また、ね」

　海の上にそっと藤色の花束を流す。

　波に揺られて、花束は静かな旅を始めた。