狂った愛を君に捧げよう【飴村乱数】

1.初めまして ページ3

Aと会ったのはつい先月の事だった｡





その日はデザインが全く浮かばなくて､居酒屋でげんたろーと帝統でやけ酒していた｡




｢んもぉー！全く､デザインが浮かばないよー！｣





ビールを一気に飲み干し､悩みを大声で叫んだ｡







帝統はおつまみに夢中で､げんたろーは日本酒をちびちびと飲んでいる｡






｢そんなに大声で叫ばないで下さい｡折角のお酒が不味くなります｣





枝豆を一つ取り､兎のように食べるげんたろーに頬を膨らませた｡



こっちの気もしれないで…疲れてんだから叫ばせてくれよ…





｢おねーさん！ビール下さいっ！｣




｢畏まりました〜｣






空いたグラスを渡し､砂肝に手を付けた｡こりこりした食感が何とも美味で身体に幸福を満たした｡





｢しかしまぁ…乱数から誘うなんて珍しいでは無いですか｡何か企んでいるのですか？｣





少し頬を赤くしているげんたろーが僕に問いかけた｡




｢勿論だよ！奢る代わりに一緒にデザインを考えて貰いたいんだっ！｣





机に置かれた数々のおつまみを机の端に寄せ､デザインに必要な資料を机の上に広げる｡







資料の紙は多く､机に広げれば木の色が見える所は少ない｡





｢うわっ！何だよこの資料は……まさかこれ見ながら考えろってか！？｣








ビールを片手に資料を見つめる帝統はダルそうな顔をしている｡







｢嫌なら良いけど奢らないよ｣



｢いいえ､有難く手伝わせて貰います｣





僕が奢り無し宣言をすると帝統の目は鋭くなる｡
帝統は金とギャンブル関係になると態度が急変する｡
まぁ､そこが可愛い所かもなぁ…




｢失礼します､ビールです｣






｢あ！ありがとうー！｣





長い話を始めようと体勢を直したと同時にビールが届く｡すかさずおねーさんへの感謝を発言する｡







｢ん……ぷはーっ！やっぱりビールは美味しいねっ！｣







おねーさんに聞こえるようにボリュームを上げて言葉を発する｡








大体のおねーさんはこれを見て､頬を赤くして､｢ありがとうございますっ｣と勢い良く笑ってくれるのだが









僕の耳に聞こえてきたのは小さくて､聞こえずらかったが









｢じゃくらいせんせー…ききましたー？めっちゃぶりっ子してますよぉ…あの人ぉ…｣








｢あの声は…飴村くんかな？｣









お酒に溺れた女の声と､大っ嫌いなジジイの落ち着いた声が聞こえて来た｡

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