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その日から、ぼくとAの秘密の授業は始まった。何だかいかがわしい響きだが、やましいことは決してない。あったらジョジョに消されてしまう。
そのジョジョだが、カルドゥッチ氏との契約で手に入った鉱山の視察のため、ここ数週間ほどネアポリスを離れている。ぼくを同行させたかったようだが、Aとの約束があったので理由をつけて断ってしまった。
「フーゴ、くれぐれも無理はしないでくださいね。それと、Aをよろしく頼みます」
出発直前までぼく(とA)を気遣っていたジョジョに若干の後ろめたさを覚えながらも、空き時間を作りAの部屋に通う日々を送っている。
「あ、フーゴさん!」
今日も彼女の元を訪ねると、机には既にノートが広げられていた。
「えっと、
初対面の時のカタコトさが嘘のような流暢さ。基礎からイタリア語を教え始めて数週間経つが、Aは、非常に飲み込みが早かった。
本人はフーゴさんの教え方が上手だからです、などと謙遜するが、この聡明さにはジョジョとの血の繋がりを感じずにはいられない。
ぼくが居ないときもひとり教科書片手に予習復習に励んでいるらしく、熱心さがうかがえる。
生徒にやる気があると、教えている方も熱が入るものだ。会話だけではなく読み書きも習得したいと言うので、最近じゃあ宿題を作って渡している。
「合ってますか?」
「うーん、7割ってとこですね」
何だか懐かしいな、と前回の宿題を採点しながら思う。
どれだけ教えても二桁のかけ算が出来なかった彼の答案は、こんなにたくさんのマルはなかったが、空欄もなかった。
分からないなりに、全問解いてくる根性はあったらしい。だからぼくは、毎回キレながらもあのイカれた馬鹿に付き合い続けたのだろう。
「...Aさんとこうしていると、昔のことを思い出します」
「昔のこと、ですか?」
「貴方みたいにぼくに勉強を教えてくれって頼んできた奴が居て......ああ、勉強中に余計な話をしてすみません」
我に返って採点の終わった宿題を返す。突然こんな話をしては困惑させてしまう。しかし、Aは何故だか柔らかな笑みを浮かべていた。
「そんな、むしろ嬉しいです。フーゴさんが自分のことを話すの初めて聞いたので。...あの、良ければ貴方のことをもっと教えてくれませんか?」
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あさはか金魚(プロフ) - 面白い!こんな面白い作品を作っていただきありがとうございます!! (2020年8月2日 10時) (レス) id: bae01be7f3 (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - tamaさん» コメントありがとうございます!最初にコメントくれた方ですよね?ずっと読んでくれていたこと、感謝します。これからも頑張ります! (2019年11月14日 0時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - お久しぶりです!31話からもうわくわくでした!頑張って! (2019年11月12日 20時) (レス) id: 85d88e1cc2 (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - 美琴さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけてなによりです!ハロウィン後半のテーマは『あの人達と一日限りの邂逅』です。もう11月ですがまだハロウィン回は続くので楽しんでいただけると嬉しいです! (2019年11月12日 1時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
伯(プロフ) - 幽銀さん» コメントありがとうございます!作者も読んでくださる読者の皆さんがいっぱいしゅき…… (2019年11月12日 1時) (レス) id: bb5d92349b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伯 | 作成日時:2019年9月3日 4時