第13話 ページ14
今、Aは武道とデートをしている。
「何かごめんな、俺に金がないばっかりに……大したところ連れてってやれなくて。」
「ううん、君となら、どこでも楽しいや。」
そう彼女の笑顔が優しくて、胸が熱くなった。
でもその笑顔に、橘の面影を見てしまって。
……そんなの、ダメだ。
分かってるのに、どうして忘れられねぇんだ……?
ふたりで公園のベンチで話していた。
仕事の愚痴、近所の人の話、Aは同僚の話もした。
ふたりで笑いあって、武道はふと遠くを見つめた。
「……」
Aはその横顔を、黙って見つめていた。
……私、なんだか分かった気がする。
武道くんの隣は、私じゃだめなんだ。
こんなに近くにいるのに、どうしても君と私の間には、人一人分くらいの隙間が空いている。
その手には、触れられない。
Aは武道とキスをしたことはなかった。
付き合い始めてだいぶ経つのに、一度として。
私、何やっているんだろう……
大好きなヒナちゃんから、武道くんを奪おうだなんて。
私は昔っから自分が嫌いなのに、これ以上嫌いになってどうするの?
本当に、私は馬鹿ね。
「Aちゃん……?大丈夫?」
俯いたAに、心配そうに覗き込む武道。
「ごめん、大丈夫。」
Aは武道にまた笑顔を向けた。
ああ、もう少しだけ、こうしていたいな。
世界で一番好きな人と、まだ恋人でいたい。
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作者名:桜花 | 作成日時:2022年10月20日 21時