第11話 ページ12
「え……?冗談……とかじゃねえよな……?」
こんな綺麗な子が、本気で俺のこと……
26歳のボロアパートに住むフリーターだぞ?しかも童貞の。
そう聞けば、彼女は顔を真っ赤にして、こくんと頷いた。
「……冗談なんかじゃない。本気。」
「!!」
マジかよ……
「私は……武道くんの恋人になりたい……。」
「26歳のダメダメなフリーターで、家はボロアパート、おまけに童貞だぞ?Aちゃんは後悔しねぇの?」
「しない。」
だって、私が武道くんをずっと好きなんだもん。
君が自分をどれだけ否定しても、周りが君を責め立てたとしても、私はずっと君の味方でいたいんだ。
「もし、私と付き合ってくれるんだったら……手を取って。嫌だったら、取らなくていい。」
Aは怖くて、ぎゅっと目を閉じた。
差し出す手が震える。
……これは賭けだ。
私の、最後の悪足掻き。
自分が酷い女なのはもう知ってる。でも今を逃したら、私は一生伝えられない。弱虫のまんまだから……。
それだけは嫌だった。
そんなことを考えていたら、控えめに、優しい手が、握り返してくれた。
「……!!」
「あー、こんな俺でも良ければだけど……」
武道くんは頬を掻きながら照れくさそうにしていた。
「……武道くんがいいの。だめな理由なんて、一個もない。」
Aは武道の手を両手で包んで、真っ直ぐに見つめて言った。
「……っ!わりっ、何か……急に。」
武道はボロボロと涙を流した。
……そんな言葉を誰かから掛けてもらうなんて、何時ぶりだろう。
中学ん時だっけ?
あの時は橘が掛けてくれたんだったっけ。
まだ俺のことを気にかけてくれる人がいたなんて、思わなかった。
そう思ったら、少しだけ心の傷が癒えて、安心したし、油断して。
久しぶりに泣いちまった。
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作者名：桜花 | 作成日時：2022年10月20日 21時
