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いとなゆびかになつかしく/6 ページ30

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「 ぼくのところに、来ませんか 」

「 ……引く手数多すぎるな私 」


川端と中原が訪れたバー。男衆から贈られたというカクテルには、毒が仕込まれていたのである。


「 __これ、本当に銀の指輪だったんですね。そんなに高いもの…… 」

「 答えをください 」

「 私を、“鼠”にするお心算で 」


銀には、毒に対する変色作用がある。主に青酸カリなどに対しての反応だが、中原が意図せずに放り込んだ指輪はその液体の中で黒ずんだ。


「 __ごめんなさい 」

「 まあ、そうでしょう 」

「 答えが分かっていたのなら、どうして 」

「 万に一つの確率で承諾して貰える未来が見えていたので。諦めはしません 」


ええ、諦めてくださいよ。と川端は呟いて俯く。風に靡いた髪が鼻筋の上に掛る。


「 転職はしたいけど、ポートマフィアを裏切る形での転職は出来ません。恩があります 」

「 そうですか 」

「 だから、ごめんなさい。私はもう少し、ポートマフィアにいてみます 」


その指輪をそっと取り、川端は片手の中に閉じ込める。光源のあまりない暗闇でも、フョードルが少し微笑んだのが解った。


「 __ピンキーリングの意味、ご存知ですか 」

「 ピンキーリング?……ああ、中也も云っていたような 」

「 調べてみてはどうです? 」

「 エッ教えてくれるんじゃないのかよ 」


そろそろ中が静かになってきたから船内に入るというようなことを川端が告げる。フョードルは別れの言葉を口にした。歩き出した川端の背にもう一度声が掛かる。


「 次会うときは、友人としてではないかもしれません 」

「 …そんなの、最初からわかっていたでしょう 」

「 貴女はぼくから情報を聞き出そうとして、近づいてきた。それじゃあ、普通の友人のように話した理由は何でしょうか 」

「 ……それは 」


川端は振り返ると、夜闇のようなその男と目を合わせた。


「 ……少し、楽しかったんです 」

「 ほう 」

「 価値観が同じなんです、きっと 」

「 ……ぼくからもひとつ質問をしても? 」

「 はい 」


首だけ振り返っていた川端はしっかりとフョードルに向き合う。少しだけ間が空いてから、その男は喋り始めた。まるで、子供が無邪気にあれは何、なんて聞くかのように。


「 死とは、救済でしょうか? 」


川端はその一瞬、幻覚を見た。目の前にいるフョードルに、片目を包帯で隠した蓬髪が重なったのである。


「 Aくん? 」

「 __ああきっと、そうなのでしょうね。こんなこと云うなんて、彼奴の影響なのでしょうけれど。死とは、きっと救いです 」


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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年1月19日 23時

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