いとなゆびかになつかしく/5 ページ29
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「 貴女に会って貰いたい人がいます 」
「 ほう、どなたですかな 」
「 ヨコハマで役人をやっています。きっと貴女なら見たら直ぐに解るでしょう 」
「 買い被りすぎ!ヨコハマってお役人さんたくさん居るんですよフョードルくん! 」
異能特務課すらヨコハマに本部が置かれている程である、役人の異能者に対する警戒は凄まじい。マフィアは裏社会だけでなくヨコハマ経済も掌握している為に政府もあまり口出し出来ないようだが。
まあ頑張ってみます、と川端は呟いた。
「 それから、何でした? 」
「 ああそうだ。太宰のこと、知ってるんですか? 」
「 はい、知っています 」
流れるような動作でフョードルは川端の方を見る。川端は海にぽっかりとあいた黄色い穴を見詰めながら、少し鼻の上に皺を寄せて変な顔をした。
「 ええーほんとか、怪しいな! 」
「 これに関しては嘘をついても何のメリットも無いでしょう 」
「 確かに……でも、太宰とフョードルくんって同族嫌悪みたいな感じであんまり合わないかなと思ってた 」
「 それを云うなら貴女もでしょう 」
そっか、でもこうしてフョードルくんと仲良く話せている訳だしね。なんて、川端は海を観察するのに飽きたのか、背を向けて柵に寄り掛かる。
「 最後に、ひとつだけ聞いてもいいですか。さっきの質問なんですけど 」
「 ああ 」
「 何で私と中也を、仲違いさせようと? 」
真似をするように視線を合わせて、フョードルも柵に寄り掛かる。ふたりの瞳の光を合計しても、それは少しにも満たないほどである。月光に背を向けてしまっては余計真っ暗闇。
「 いつもつまらなそうなAくんの怒った顔が見たかったんですよねえ 」
「 …つまらなそうですか、私? 」
「 はい、ぼくにはそう見えます。全ての感情を50%程の力に制御している。あの時は、100%に近い所まで引き出せましたけど 」
「 見てたんですか!いやな人だなあ 」
「 ____それに貴女にあの指輪をあげたのも 」
何か云おうとする川端を片手を挙げて遮ったフョードルは、改めて川端に向き直り、片方の掌を彼女に向けて差し出した。
「 これ…… 」
黒く、黒く変色した指輪である。月明かりに照らされて辛うじて見えるそれは、間違いなくあの時のもの。
「 ぼくは貴女に生きていて貰わなきゃ困るんです 」
「 …………っ!そういうことか! 」
「 ねえAくん 」
フョードル=ドストエフスキーは歪んだ指輪の穴から川端Aを覗く。そして、その端正な顔で、綺麗に笑った。
「 ぼくのところに、来ませんか 」
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月19日 23時