とうめいをあいす ページ17
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確か、４月２５日のことだったと記憶している。大切な記念日になる日だったから、鮮明に覚えている。
____あまり夢を見ない彼が、夢を見たのだという。
それは歯が抜ける夢だったそうだ。正夢にならないといいね、と笑って見せたが、こういうものは口に出すだけで正夢にはならないらしいから安心だ。ただしかし……否、何でもない。
朝から妙に海がざわめいていた。いつも海の声が聞こえるこの部屋で、弱い体を休めていると、砂浜で急に波が大きく立った。遠くの方でテトラポットにぶつかって消えた波は何だか碌でもないことを伝えようとしていたのだ。
一方の彼は、朝から緊張した面持ちを湛えていた。どうしたの？と問うても何でもないと答えるだけ。今日は珍しく仕事の予定がないらしく少しだけ遅くまで寝ていた彼は、ぴょんと跳ねた髪を摩ってリビングに現れた。顔が強張っていた。
誤魔化すようにされた夢の話は、私の心臓を大きく動かす。後ろで波が襲いかかってきそうなほどに激しく立って、晴天に似合わない。
どうしたの。再度尋ねると今度は苛々とした声色でなんでもないから、と告げた。しかし、次の瞬間、彼は勢いよく顔を上げる。
「 今から出かけるよ、 」
「 ……え？ 」
「 だから、今から出かけるって言ってんでしょぉ！ 」
「 う、うん、唐突だね 」
「 ほら、準備して 」
まだ緊張した面持ちで彼は告げて、なんだか楽しくなった。なんでそんな顔してるの？と揶揄ってみるとなんでもいいでしょと少し怒られた。波のさざめきなんて気にならなくなる。
ただひたすらに、この温度が続けばいいと思った。目の前が眩んで、また元に戻って、何が何だかわからないまま彼のあとを駆けた。幸せは、歩いてこない。そのような歌があった。だから丁度今みたいに、自分で追いかけなければ。もう離さないように幸せを捕まえておかなければ、後悔なんてものじゃないくらいの感情に打ちひしがれてしまうから。
案外、近くにあるものだ。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2018年4月25日 5時
