アルフェラッツの傾慕 ページ29
，
「 A 」
「 瀬名、 」
「 A、A 」
彼女を確かめるみたいに沢山名前を呼んで、肩を掴んだ。彼女は今、此処にいる。
「 瀬名のばかっ 」
「 は、 」
彼女の手が伸びてきて、目を瞑った。首に暖かな感触と目に映える水色。
「 俺のマフラー… 」
「 なんで落とすんだ、ばかっ 」
彼女は緑色のマフラーを首に巻いて、泣きそうな顔をしている。ばか、俺あんたのその顔には弱いの。泣きたいのはこっちだよぉ？
「 駅前に落ちて、 」
「 っあ、来なかったアンタの方がばかでしょ！ 」
「 そ、それは、ごめん… 」
彼女に一歩近づいた。頭の上に乗った雪を払って顔を覗き込むと 不思議そうな光を瞬かせた瞳と目があう。俺の知ってる“ 天才 ”はみんなこんな瞳をするのだ。
「 ……会いたかった 」
「 悔しいけど俺も 」
最初は会いたくなんてなかった。遠くから見ているだけで満腹だった。関わりたくなんてなかったのに、目の前の星を離せないでいる。
「 目、閉じてよ 」
「 め？ 」
「 いいから 」
凍える手で彼女の頬に触れると冷たかったのか素直に目を閉じた。睫毛が震える。
，
距離がゼロになった時、時間の流れがゆっくりになって
昼と夜が入れ替わるのを感じた。
星が瞬き始める瞬間の音が 聞こえた気がする。
降雪はまるで 星が降ってるみたいだね。Aも、同じことを考えてたらいいな。
「 ん、ふ、っ瀬名っ 」
「 ん… 」
触れるだけのキスから貪るようなキスに。
優しくなんか してあげないから。
白い雪とは対照的に赤く染まった彼女の顔を見下ろした。
「 To my beloved 」
「 せ、な 」
絵のタイトルは『 To my beloved 』
俺は男だから、モナはつけられないもんねぇ。
キャンバスの向こうの瀬名泉は あの写真よりも何よりも、綺麗な笑顔をしていた。モナ・リザにも負けない名画。
「 瀬名泉、私は瀬名泉が好きだ 」
「 …今更言わせないでよねぇ 」
すき だなんて、今更言わせないで。
「 ……すきだよ、A 」
今から何処に行こうか。
プラネタリウムでアルフェラッツを見る？それは来年の秋に残しておこう。
雪が降り止んだら、またあの海に行こうよ。
いつか一緒に本物のモナ・リザを見て、綺麗だね って頷き合って。来年も再来年も、１０年後だってアルフェラッツを。
あぁ、勿論 水色のマフラーは忘れないように。
___fin
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ねむい(プロフ) - minatoさん» そのように感じていただきとてもうれしいです；；お読みいただきありがとうございました。細かい点まで読んでいただき、嬉しい限りです。これからもどうぞよろしくお願い致します。 (2017年12月26日 14時) (
レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
minato(プロフ) - コメ失礼します。お話、すごく良かったです...!ねむいさんの表現や、情景描写がすごく綺麗でせないずの精巧な美しさというか繊細な美しさ的なもの(語彙力不足)と表現によって引き出された情景や登場人物の美しさに感動しました。一言でいうと好きです((お疲れ様でした! (2017年12月26日 14時) (レス) id: 049240713a (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - しみ猫さん» とても嬉しいコメントありがとうございます、そのように感じていただけて嬉しい限りです。お読みいただきありがとうございました！ (2017年12月13日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
しみ猫(プロフ) - 感動しました、夢主の天才だけど、とても人間らしくて、読むのがとても楽しかったです、すばらしい作品をありがとうございました。 (2017年12月13日 23時) (レス) id: 48eca2380d (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» ありがとうございます〜！いえいえ、拙い文章ですが楽しんでいただけたのなら幸いです；； (2017年12月10日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2017年12月6日 18時
