アルフェラッツの傾慕【瀬名 泉】

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雪は降り止まない。



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滑りそうになりながらもアスファルトを走った。早く、早く学院へ。
そこに彼女がいるわけじゃないけれど、早く。




「 b、 」



呟きながらも、携帯で調べるという選択肢もあったはずなのに、正門をくぐった。あの英和辞典はまだ美術室に。モナ・リザはまだ。



アイドル科の生徒が普通科の校舎に入るなんて変なのかもしれない。普通科の生徒がアイドル科の校舎に入るのは禁止されているけれど、逆は普通科の先生に少しだけ嫌な顔をされるだけ。なら、少しくらい。今日、もう今日限りにするから。




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美術室は部活で閉め忘れた生徒がいたのか大きくドアが開いていた。今まで走っていたのに何故か美術室を見てほっとして、ゆるゆると歩き出す。



そこに置いてあった英和辞典を手に取る。何故か重みを感じて顔が強張った。



「 b、e、 」



折れ目がついていたページを開いてその単語のスペルを口に出していく。
l、o、v、e、d。




全てを理解した時、口元を押さえながら膝から崩れ落ちた。熱を帯びていくのが分かる。



足元にあった携帯を手繰り寄せて美術室から出ようとした。
手に触れたのは床。案外遠くに置いていたみたいで、その時気がついた。




「 …マフラーがない 」




目に映らない水色はあの日見たシリウスに似ていた。彼女が言うアルフェラッツも似ているのだろうか。
シリウスは一等星。アルフェラッツは決して一等星ではない。輝きはシリウスよりは小さいけれど、もし来年 彼女と一緒にあの星を見られたら。






To my beloved





愛しい人へ という意味だそうだ。





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