甘さと苦さの隙間/5 ページ27
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「 ___首領 」
そのビルヂングの最上階に踏み込んだのは中原中也だ。昼間であるのに薄暗いその部屋はぼんやりと指揮者の輪郭を映し出していた。
「 あぁなんだ、中原君か。てっきり川端君が太宰君との話を切り上げてきたのかと思ったのだがね 」
「 _____貴方は、知っていたンでしょう 」
その言葉に、森鷗外はにやりと笑みを浮かべて告げた。「 何のことだい? 」、心無い言葉に中原は歯を噛みしめる。
「 彼奴は三島のことをずっと気に病んでいる、そしてその能力者の辿った道を貴方は知っていた 」
「 ふふ、君達は本当に… 」
ぎろり、光った目だけが浮かび上がった。当然、森には中原にも、そしてAにもそのことを伝える義務などない。然し、確かに目の前の中原は憤慨している様子である。それを可笑しそうに見、森は続けた。
「 盗聴器が好きだねぇ? 」
「 …ッ 」
「 手口が似ているのだよ 」
此れは 愛 というものなのかな?それならば重々しいことに違いはない。その言葉にまたもや中原は唇を噛む。如何やら全てお見通しのようで。わかりやすいことこの上ない。
「 彼奴だって人間ですから、感情は有りますよ 」
「 ふふ、そんなことは知っているよ。けれどね… 」
「 けれど? 」
エリスが森の服の袖を引っ張った。如何やら話はもう少しで終わりそうだ。中原が目を伏せたのを合図にして口を開く。
「 君もわかっているだろうけれど、川端君は優秀な狗。未だ“ 自分 ”を捜して彷徨っている、言わば、 」
______
「 ……そりゃあいい 」
中原が踵を返す。エリスがその後ろ姿に手を振った。どこへ向かっているのか、もうお察しであろう。
扉をやや乱暴に閉めると体を倦怠感が襲った。ただただ“ 行かねばならない ”という気持ちに動かされて、嘘か誠かわからないその資料を手に部屋に向かう。
「 ッたく、盗聴器が好きなのはどっちだよ 」
中原は机の上で主張を続けるバイクの鍵を握った。放り出した資料は散らばり、今度は“ 潮騒 ”の文字が主張を始める。破り捨てたくなるも、この資料を紛失させたとなれば最悪組織から追放。それもいいかもしれないと考えたが、矢張り彼奴のために追放何てされるかよ、という意地が勝ち手を戻した。
怠い体を持ち上げて扉を開くと、其処には変わらないヨコハマの景色が広がっている。
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ねむい(プロフ) - イチゴプリンさん» いつもありがとうございます、本当に励みになります、、!これからも何卒宜しくお願い申し上げます! (2018年4月2日 12時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
イチゴプリン(プロフ) - ねむいさんの作る作品はとっても面白くて大好きです!これからも更新頑張ってください!応援してます! (2018年4月1日 13時) (レス) id: 645f74247e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2018年3月27日 16時