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時計の針が、頂点を刺した。その瞬間に、嗚呼、と空を仰いで。仰いだだけだ。それでも、背後にいる筈の彼の手の感触が、なくなっていくような、そんな、そんな気が、して。
「 ひめみや、くん？ 」
「 ……だから、いったのに 」
「 ……もう帰らないと、……ううん、もう帰れない、って 」
その言葉を残して、わたしが左手に付けていた筈の腕時計を彼が懐から取り出して。それを受け取って、何かを忘れていたような、そんな感覚と。思い出そうとする度に、鋭い頭痛が襲いかかって。
さいごに、何ていって彼は笑いかける。
「 ボクはずっと、覚えてたから。だから、次はAのばん、だよ。だから、だから、ね、 」
( つぎは、忘れないで )
そんな小さな、泣いてしまいそうな声が、やはり何処か苦くて、それでも甘くて。たしか、えぇと、あの夜は。ペットボトルの中の水を飲んだ彼が急にたおれて、わたしがその前の日に戻れたら、何て、流れ星に願って、結局、同じ時間、なのに。
____あぁ、また、あのくらい、くらくて何も見えないような、そんな夜がくる。
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「 ……で、何で、そんな話をボクにするのかなあ？ 」
「 つぎは、わたしも姫宮くんも、忘れないように、かな 」
「 ……そっか 」
得も言われぬ顔でそう言われた。わけがわからない、とも言いたげな表情だった。ただ、つないだ手は暖かくて、何度繰り返したのかもわからないような、そんな会話でも血が通っているものであるような、そんな気がして。
「 夢なんかじゃ、なかった、んだよね 」
「 夢だったら、なんて思う？ 」
だったら、また、星に願ってみればいいじゃん。
天使の誘惑。あの日に飲み干して、一度はなくなったはずのカンタレラが、またじわり、と蝕んでいくような、そんな。
「 だって、もうこんな夜は懲り懲りだもん。ボクが何回願っても、Aが願ってくれなきゃ、もう戻れない、し 」
こんなに、星がきれいなんだし。
そう言って、彼は笑って。その笑顔でさえ、夢、だったのかな。
もうわからない、わからない、から、
「 ……戻りたいけど、願っても、戻れない、のかな 」
「 もどれたら、次はちゃんと言葉にしたいけど。きっと諦めちゃうんだろうから、……じゃあね、おやすみ 」
その言葉は聞きとれなくて、また同じ夜がくるんだろうなあ、なんて。おもって、おもっては、もう何もしたくなくて。それならもう、やめてしまおうか。ふたりきりのこの夜だけを、心待ちに、して。もう、眠ってしまおう。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
