星に願いを/七種茨 ページ30
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花火の音が響く。色とりどりの鮮やかな火花は、彼らの、彼の美しい顔を照らしつけた。
眩しかった。
とても、すごく。普段からは想像もつかない、いっぺんの他意を見せない、誇らしく微笑む彼の顔。
綺麗だった。
茨はどうです、俺のライブは。と言わんばかりの表情でこっちを見た。かっこいいと思った。
時間だけが徐に過ぎる。エンディングも打ち上げも終わり、疲弊しながら帰った学園の静かな屋上で二人空を見る。
…実を言うと、あのまま時が止まればいいのに、と思った。今のひとときを進まない時の箱に閉じ込めて、ずっとこの夢のような現実を見ていたい、と。でもそれは叶わない。永遠に叶うことは無い。
何故なら私が他校の人間だから
何故なら私がプロデューサーだから
何故なら私が彼に好かれているから
何故なら、何故なら、何故なら……
彼は言う、私を好いていると。
私は言う、それはあってはならないことだと。
彼は言う、わざわざ芸能界のカタにはまらなくていいのではないかと。
私は言う、それでも貴方の夢を壊したくない、と。
私は思った。彼の告白を承諾してしまえば、その関係が公になった時、世間からはきっと反発をくらうだろう。アイドルに恋愛はご法度。昔から容認されてきた暗黙の了解。ファンの夢を壊さぬため、自分の夢を壊さぬため。自分自身がアイドルが大好きだからこそ。
「俺は良いんです、貴方が幸せであるならばなんでも」
「茨くんの希望をなくしてしまうかもしれないのに幸せであれるはずがない」
「やはり貴方はお優しい。…じゃあ、こうしません?」
星に願いを叶えてもらいましょう。
普段の彼からは思いもよらない突拍子のないことを口にした。私達は織姫と彦星か?立場こそ違えど確かに境遇的には似通っている。
「次に行われるAdamのライブが文句無しの大成功に終われば俺とお付き合いして頂く。もし一度でも失敗すれば、致し方ないですが頑張って諦めます。」
どうですか?
どうって聞かれても。この人の言うことに有無を出すのが難しい。この人もこの人で言ったことは有言実行だし、私の逃げ道はきっと無い。
「そうですね…"失敗"しなければ、私も腹を決めましょう。お星様にお願いしますか?大成功しますようにって。」
私は、成功すればいいのになって思っておきますね……とは言わず、空に向かって「失敗しますように」と大声を出した。
成功なんて、しなくていいんだ。お互いのために、私のために。星に願いを。
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2019年8月26日 19時