◇ ページ26
「だからもう、貴方に守って貰わなくても、大丈夫」
きみが不幸になればいい。すがるもの、何もかも無くなって、最終的にぼくの元へ戻ってくればいい。とは、思わないけど。そういう、どろどろに煮込んだ執着みたいなのを愛だというのならば、ぼくは一生愛を知らないままでいい。だってぼくが信じる愛は、もっと高次元。万人が夢見る、ラブロマンス。愛の循環。体温の、ぬくもり。
「でも、もし、わたしがいつか、貴方に胸を張って会える人になれたなら」
落ちていく。物理法則に則り、叩きつけられる予感。
「また、会ってくれる？」
残酷！喉の奥でサンドイッチが非難する。どうせ、いちど離れるならば、きみはぼくの神様になってほしい。そうしたらぼくも、きみの神様になる。神様の気持ち、あんまりよくわからないけど。だってぼく、神殺しの大罪人。金の林檎を齧ったせいで、地上にも堕とされたし。それに、どちらかといえば、また天使がやりたい。きみが永遠になり損ねて万が一死んでしまったとき、迷わないよう天国に導く係。
「……ぼくは、来世は二度ときみの顔を見たくないね」
自分の唇が、かすかに震えたのが分かった。ああ、こんなときになんて不恰好！良くないね、まるで真っ暗闇に怯えるちいさな子供みたいだね。
彼女が、無理にはにかんだ。どうしてきみが、そんな顔？
「……うん。そうだよね。ごめんね」
だってこの夜も、夜が明けた後の朝焼けも、これからは全てきみだけのものだ。
「愛して欲しかった」
愛してた。
「ありがとう、好きになってくれて。今まで、守ってくれて」
お礼をいうのは、ぼくの方。
「でも、もう、忘れてくれてもいい」
前言撤回。きみ、死んでも女優だけはやめた方がいい。涙が流れるタイミングまで完璧だと思えたのは偶然か、もしくはぼくの慾目。だって笑顔、下手すぎる。金切り声が歌い上げる、最終小節。ぼくらの愛の、ラクリモサ。
ほんとうの、ほんとうに。いっそ不幸になってしまえばいい、とは思わない。幸せに、なってほしい。
「幸せになってね。ぼくを振ったこと、後悔するぐらいにね」
でもぼく、きみをのろいたい。
できればぼくを、少しも思い出すことがないぐらい。って思って、ちょっと泣いた。涙、滲んでいること、わかってるだろうに。頷いたきみはお構いなく、とどめを刺す。
「貴方は、わたしの、」
ああ、ここはきっと、宇宙ではなく。
「シリウスだった」
底さえ知れぬ、夜の果て。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
