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昨日のうちに随分と早足で過ぎていった豪雨は、どこか彼女にも似ている気がした。
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_____初恋の子は、彼女みたいに、はっきりと物怖じせずに言葉を伝えられる子だった。確か、いつか彼女と同じ言葉を言われたことがあったはずだ。それもたくさん雨が降っていたときだった。
昔のことを振り返ってもきりがないので、ぎんぎんと日差しが照りつける中を歩き出した。蝉は雨に流されていったかのように少なくなったにも関わらず、アスファルトから照り返ってくる光は未だ強いままだ。
「 だーかーらー。なんでついてくんのさ 」
「 あんたがついてこいって言ったようなもんでしょ? 」
目の前で毛先の揃ったセミロングの黒髪がなんだか迷っているみたいに見えた。彼女との間は5歩。横を通り過ぎた電柱には蝉が一匹だけ止まっていた。
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「 …どうも 」
「 …………どうも 」
一体地球上で、会いたくない相手に狭い本屋の中で取ろうとしていた本が同じという理由で偶然にも出会ってしまうのはどのぐらいの確率になるのだろうか。一瞬手が触れて、先に引っ込めたのはこっちだった。あのとき黒いワンピースから出た細い腕を、今度は白く透けた袖から出して、なかなかおろせずにいたのは彼女だった。名前もわからないのだから、もはや彼女と呼ぶしかない。
「 ………お元気ですか 」
「 ………お元気です 」
はっきりとした言葉を使うくせに、いくらなんでも話題の振り方が雑すぎる。ふっと微笑を浮かべると、彼女はなんだか驚いた顔をして勢いよくこちらをみた。
「 なに 」
「 んーん、なんでも。それより朔間くん 」
「 苗字で呼ばないでよ 」
「 …凛月くん?あー懐かしい 」
「 はあ? 」
俺とあんたは関係ないはずでしょ。
そっか、と無機質な声で放った彼女は手に取っていた本をその本の居場所に戻した。結婚式の時彼女が俺をそうしていたら、なにかが変わっていたかもしれない。いや、変わっているはずないか。叶わなかった恋が叶うようになるはずないし。
「 私のこと知りたい? 」
「 思い上がらないで 」
「 知りたかったらさ、 」
勝手についてきて。
踵を返した彼女は挑発的な目をしていた。それが、少しだけ悲しそうに瞬いた、気がする。自動扉から暑さが侵入してきて、それがまた煽情的だった。一瞬で冷やされた熱気をまたあたためてやろうと自動扉をまた開く。耳に残ったBGMのピアノが少なくなった蝉の声に馴染んでいった。
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フラッペ - ねむいさん» りっちゃんはいいですよね(^^)独特な雰囲気というか無気力で可愛らしいというか……でもライブではきちんとする所、好きです。更新の方は細かく繊細に書かれているのがねむいさんの作品の良いところですので、自分の思うがままに書いていただければ幸いです……♪ (2018年8月22日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - フラッペさん» ありがとうございます。フラッペさまからコメントをいただくたび、有難いという気持ちで胸がいっぱいになります。お気付きかとは思いますが、私も朔間凛月が一番の推しです。しかし推しほど書くのが難しい!精一杯尽くしていきたいと思いますのでよろしくお願いします! (2018年8月20日 10時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - 新作おめでとうございます(^^)推しのりっちゃんなのでとても嬉しいです……!!もう一話目で「好き」と口からポロりと出てしまいました。ホントにこの作品の続きがむちゃくちゃ気になります。ねむいさんの事応援してます♪ (2018年8月18日 21時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2018年8月15日 23時