32.仇 ページ35
.
[ 恵side ]
ありていに言えば、スローモーションのような。
あまりにも綺麗に笑って、それから。
消えかけの一言と共に、ゆっくり体が倒れていく。
もう二度と見たくなかった、その瞬間だけは
何分、何十分にも感じられた。
ドサ、と伏せる漆葉の体。
───広げる血の海。赤い海。
不意打ちで彼女を手にかけた呪霊は
そのまま背を向けようとする。
「………おい。待てよ」
自分の想像よりも低い声で、引き止める。
「まさか、このまま帰るつもりか?」
〈オマエタチハ、関係ナイ。
アノヒトハ、望ンデナイ〉
「上がいんのか。……ちょうどいい」
鼻で笑い、パキッと指を鳴らして。
「ソイツ出せ。お前もろともぶっ殺してやる」
顔のない人型呪霊。
湧き上がる激情を抑えつけながら
コイツは見えてよかった、と心底思った。
仲間の、幼なじみの仇がわからないなんて
冗談じゃない。
「……そーね。同感」
「目の前で仲間殺されて
堂々と撤退するわけねぇだろ」
立ち上がる。もう2人の仲間。
思うところはやはり、同じらしい。
相手は強いだろう。
話が通じる……その時点で準一級以上だ。
どう来るか。
〈……。ソレハ、困ル〉
ガクン、と突然足元が不安定になる。
見れば床が水面のように波打っていた。
あっという間に体勢は崩れ。
「!!」
もう、すぐ目の前に。
拳が迫ってきていた。
◇
〈弱イ。ナンデ?〉
「っ……」
強い。やっぱり。
わかっていたが、強い。
ここまで歯が立たないとは。
〈アァ、ソウダッタ、ソウダッタ。
コレ、持ッテイカナイト〉
「なっ、待てお前!」
虎杖の声で、ハッと
ぼやけた視界を無理やり開かせる。
呪霊はこちらにはもう背を向けて
倒れ伏している漆葉へと足を向けていた。
「漆葉に、触んじゃないわよ……ッ!」
〈…ウルサイ〉
床がせり上がり、釘崎を突き上げる。
重力は正しく仕事をして、床に彼女を叩きつけた。
「釘崎!!」
「っ……無事、よ。この程度なんでもない」
野薔薇は顔を歪めながらも、不敵に笑ってみせる。
〈無駄ナコト、スルナ〉
「無駄かどうかは俺が決める」
〈無駄ダ。コイツハ、モウ死ンデ──〉
動きを止める呪霊。
時間差。こちらにもそれは届いた。
────とんでもない呪力の量。
何もできないまま、次の瞬間。
視界が。世界が。
真っ白に塗りつぶされた。
.
323人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Sn(プロフ) - プスメラウィッチさん» コメントありがとうございます。五条悟オチです。長めのお話になる予定なので、頑張って完結させたいと思います。 (2021年8月26日 22時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年8月25日 23時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
Sn(プロフ) - Spicaさん» ありがとうございます。励みになります。 (2021年8月25日 14時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
Spica(プロフ) - とても面白いです!続き期待してます! (2021年8月25日 14時) (レス) id: 68c958f74e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Sn | 作成日時:2021年7月24日 16時