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24.空中散歩・起 ページ26

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主役となる花火は、確かに素晴らしいものだった。
日本有数の花火大会というのも頷ける。

それを間近な、遮るものもない場所で
鑑賞できる機会はなかなかない。

次々に上げられる夜の華は月とともに空を彩り──。



けれど。

思っていたほど心に響かなかったのは、
たぶん、ずっと考え事をしていたせいだ。







花火の打ち上げが終わると
祭りは終幕へと向かう。

そしてそれは、残念ながら穏やかな終わりではない。


「うわ、すっごい人混み」


いざ帰宅しようとする人々が、通路にごった返す。
我先にと飛び出した結果だ。


『少し待てばよかったかな』

「ほんと。失敗ね」


自由に身動きの取れない状況。
声を張らないと、まともに会話もできない。


押し合い圧し合いしながら
狭苦しく、息の詰まりそうな空間に耐える。

囲まれていると本当に息ができなくなりそうで。
ふら、と足元が揺らいだ。

そしてさらにタイミングの悪いことに、
雪崩のごとく人波が動く。


『あ、』


パッと野薔薇との距離が離れた。

まずい、と思うより早く
あっという間に向こうへ流れて行ってしまう。

他の皆も、向こう側に。




不安定なままの背中に
人がぶつかって、つまずく数秒前。


誰かが、私の手を掴んだ。


『!?』


振り向く。

飛び抜けた長身、とにかく目立つその人。
すう、っと大きく息を吸って。


「高専のみんなー! 駅前集合ーー!!!」


よく通る声が、伸びやかに。

向こう側から、私の不在に気づいた声が
かすかに聞こえてきた。


『…先生』

「さ、行こうか」


何事もなかったかのように
五条先生は反対方向へと歩き出す。

人の流れに逆らって。


『先生、逆じゃ……』

「まあね。ちょっと寄り道するの」

『…どこに?』

「それは今からのお楽しみ〜」


逆行しているのに、先生の歩はスムーズに進む。

繋がった手は離れる心配すら無意味なくらい
力強く握られていた。



人はまばらに。明かりは少なく。
だんだん静かになっていく周囲の空気。



「──このあたりでいっか」


ずっと前を向いていた先生が
このとき初めて振り返って、挑戦的に笑った。


「飛ぶよ、A」

『え、』


ひゅうっと風を切ったのは一瞬。

ゆらゆらと停滞した動きに、
おそるおそる目を開けてみれば。


『わあ……』


眼下に広がるは夜の街。

宙ぶらりんなのを忘れてしまうくらい
見事な夜景がそこにはあった。


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設定タグ:呪術廻戦 , 五条悟 , 恋愛   
作品ジャンル:アニメ
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Sn(プロフ) - プスメラウィッチさん» コメントありがとうございます。五条悟オチです。長めのお話になる予定なので、頑張って完結させたいと思います。 (2021年8月26日 22時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年8月25日 23時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
Sn(プロフ) - Spicaさん» ありがとうございます。励みになります。 (2021年8月25日 14時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
Spica(プロフ) - とても面白いです!続き期待してます! (2021年8月25日 14時) (レス) id: 68c958f74e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Sn | 作成日時:2021年7月24日 16時

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