僭越ながら上官様、宣戦布告させて頂きます

宣戦布告１２ ページ13

何事も無く仕事に戻ってしまおう、そう考えていたのに。


旧多「ねぇ、A三等」


出来なかった。









旧多「そうやってしおらしくしてる貴女、すっごくカワイイですよ｣










…涙やら何やらで濡れたスーツの袖が引き寄せられ、泣きブス一直線な顔にぐっと押し当てられるハンカチ。

柔らかくていい匂いのするそれは私の涙を拭い取る。


『え、うわっ』

旧多「とは言えその可愛さも、泣いちゃっては台無しですがねェ」



驚いていると乱暴に顔を擦られ、涙どころか顔の皮膚までごっそり持って行かれそうな勢いにシンプルな恐怖が沸いた。






キジマさん第二号になるのは死んでも嫌だ。
本人には言えないけど。






『痛いですやめて下さい！顔がすり減る！』


必死に訴えると鬼畜上官はフンッっと鼻で笑い、「元気じゃないですか」なんて不遜に言い放つもんだから腹が立つ。



旧多「その気の強さどうにかすれば、少しは可愛がって差し上げますが…出来ますか？A三等」


『無理です！無理無理無理、耐えられません！』




マシンガン式で捲し立てた私に、とことん悪辣な上官は嘘くさい《良い人フェイス》で言った。






旧多「でしょう？貴女は貴女らしく、が一番ですよ」



旧多「無理に取り繕った貴女より…自然体のA三等の方がよっぽど魅力的です」









…どう考えてもからかわれているとしか思えない発言に、しかし不意にどきんと心臓が跳ねる。






『…』


くそ、悔しい。






大嫌いなのに、その筈なのに…何でだろう、旧多一等の台詞に頬が緩みそうになってる自分がいる。





どんなに憎たらしくても、不思議と《大嫌い》になれない。




この人が…旧多一等が、こうやって上手く私の心につけ込んで来ようとするから。








気付けばいつも旧多一等の欲しいままに弄ばれている自分に、どうしようもなくむかっ腹が立った。







『…っ旧多一等、最低！女たらし！』








旧多「は？」



『だから無駄に下馬評だけは良いんですね上官はッ！よく、よーく分かりました！では失礼します！』









私は何となく熱い顔を俯かせると子供並みの捨て台詞を全力で吐き、今度こそ振り返らないでオフィスに駆け戻る。



背後からは旧多一等の「ほらほらA三等、可愛げ無くすのはそういう所ですよー」という茶化しが聞こえてきたが、それどころではなかった。








─────やっぱりあの上官、苦手だ！！！

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