【utit】満月の夜、君は優しく微笑んで…【短編集】【合作】

続 ページ44

家に入った途端、坂田は鍵を閉めたと思ったら、チェーンまで閉めてしまった。
引っ張られた腕は痛くなかったけど、その優しさが罪悪感を刺激して、胸がズキズキと傷んだ。
坂田はくるりと私の方を向くと、私の方へと、その大きな手を伸ばした。
反射的に目を瞑れば、急に温かい何かに体が包まれた。

「ほんま……心配した……」

……あぁ、そうだ……
私の彼氏は、心配性で、独りが嫌な、寂しがり屋でもあるんだった。
坂田の背中に腕を回して、坂田のことをめいいっぱい抱きしめた。
坂田が擦り寄ってくるのを感じながら、私は小さく、でも坂田に聞こえるような声で『ごめんね……』と呟いた。
坂田は、一度も私のことを否定したことなんてなかったのに。
ずっと、心配してくれてただけなのに……
私と坂田は、どちらかともなく、玄関で泣いてしまっていた。


泣き腫らして数分後……
私は坂田にもらったホットココアを飲んでいた。
熱くない、ぬるいココアは、とても心が温まる。
……あ、そうだ。

『坂田？なんで私にキッチンに立たせてくれないの？それに洗濯物だって……私だって坂田の力になりたいのに……』

「A……それは、すっごく嬉しいんやけど……でもな？Aがもし怪我でもしたら嫌やから……おれにやらせて？」

ホットココアを机に置かれて、今度はぎゅっと坂田の手が私の手を包み込む。
先程までとは打って変わって、優しく光る赤い瞳は、どこか不安げだった。
でも、私も役に立ちたい。
坂田のために、坂田が私にしてくれたように……
坂田は唇に弧を描くと、赤い瞳を細めて、静かに、どこか冷たく笑った。

「Aは、なぁんもしなくてええんよ？おれが、全部したげるから。……な？」

『なんで……そこまで……』

「なんでって……そりゃあ……」

赤い瞳が、赤黒く、染まる。
ゾッとするような、まるで全てを支配する紅い月のような瞳に、逃げたい衝動に駆られた。
でも、坂田に手を握られているから逃げられない。

……私は、ようやく知ったのだ。
坂田が、どれだけ異常なのか。

愛おしげに、だけれど私を見る目はどこか虚ろな坂田を、私は涙で歪んだ視界で捉えた。







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「キミはおれのカミサマやから」







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狂気(それ)に気がつくには、遅すぎた。

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