【utit】満月の夜、君は優しく微笑んで…【短編集】【合作】

続 ページ28

駆け落ち。その一言の意味を察するのに時間はかからなかった。それは、いい。私だって喜んでしたいわよ。
でも、それは……

『いいの？あらき。その事を両親が知ったら、貴方は何をされるのか分からないわ。最悪、殺されてしまうかもしれないのよ……？』

同時に、あらきの命が危険に晒される可能性が増えてしまうのだ。そんな事、望んでない。
ましてや、私のせいであらきが死んでしまう事だって…

「…私は貴女の執事です。主の仰せを施行するのが執事ですから。どんな危険を冒そうとも、私は貴方の仰せを承ります」

「A様は、どうしたいですか…？」

『……いつまでも、貴方が私の傍にいてくれるならそれでいいわ。……でも、今回ばかりはもう我慢できない。私、貴方と駆け落ちしたいわ』

もう、息苦しい生活なんて望まない。両親からも、名家からも、お嬢様からも、何物にも縛られない自由な生活を、貴方と過ごしたい。

「…そうですか。武士に二言はないですね？」

『勿論よ。…あぁ、それと、この際だから言っておくわ。私、あらきのことが好きよ。あの時出会ってからずっと、あらきのことが好きだったわ』

「…ええ。私もA様の事が好きです。純粋な心を持って、歩けないことを悔やみつつも懸命に生きているその姿に、いとも簡単に恋に落ちてしまいました」

『ふふ。堅苦しくしなくていいわよ。私たちはもう、執事とお嬢様という関係ではないんだから』

「…そうっすか。でも慣れないものです。長年貴女の執事をやってたものですから…」

そう言って、あらきは少し苦笑いをする。ふふ、普段滅多に見せない笑い方ね。
もう、私は何物にも縛られない。お嬢様でもない。名家の跡継ぎでもない。ただの、平凡な少女として、生きていくのだから。


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「…月が綺麗ですね、A様」

『ふふ、そうね。でも、ずっと前から月は綺麗よ』

満月の夜、私達は屋敷から逃げだした。私は歩けなかったため、あらきに横抱きしてもらって何とか逃げだせた。
夜空に光っている黄色くてまん丸い月は、私たちの覚悟を祝福してくれるかのように、美しく光っていた。

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