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Aside
拘置所内で待っていると、
髪を降ろして変わり果てた遊佐チエミの姿があった。
「座って。」
「何しに来たのよ?」
「一応報告にと思って。昨日、"殺人鬼スコーピオン"の撮影現場付近で埋められた白骨死体が発見された。
DNA鑑定で、本多さん本人だって分かったってさ。」
「やっぱりあんな奴ら、ころして正解だった。無理やり、
危険なスタントマンやらせて死んで用済みになったらゴミのように捨てるなんて。」
「それは違うんじゃないかな?」
今日初めて、遊佐さんが私の顔を見てくれた。
バックの中からあるものを取り出す。
「これ、蔵沢先輩の自宅で発見された"殺人鬼スコーピオン"の撮影スケジュールなんだけど、よく見て。
遊佐さんのお兄さんが顔も出ないスタントマンだったとしたら、
危険なシーンしか出演してないはずなのになんでわざわざ全シーン撮り直す必要があったんだろう?」
「これさ、こう考えれば納得が行くんだ。君のお兄さんは、
無理やり飛ばされたスタントマンなんかじゃなかった。」
「えっ?」
「「元々主役だったんだよ、君のお兄さんこそが。」」
「お兄ちゃんが…主役?」
「あのシーンだけは撮り直すことができなくて、そのまま使ったんだろう。
だってあのシーンは…君のお兄さんが夢見てた、
アクションスターへの大きな一歩だったんだから。」
「にしても惜しいよね、美雪ちゃん。」
「うん。見てみたかったな、本多さん主役の"殺人鬼スコーピオン"。」
「真田先輩で撮り直して準グランプリだったんだから、
遊佐さんのお兄さんが主役だったらどうなってたんだろう?」
「決まってるじゃない。間違いなく、グランプリよ。」
遊佐さんは嬉しそうにそう答えて、泣いていた。
遊佐さんの泣き声だけが、この部屋に響いていた。
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作者名:反町ゆうり | 作成日時:2022年2月27日 8時