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【54】 ページ8

「あれからね、何も変えてないの。ゴミは流石に捨てたけど…でも、それだけね」

場地くんの部屋は、なんだから「らしい」部屋だった。
当の本人は「あんま見るんじゃねぇ」と語気強めに私に色々言いつけていたが、自分の部屋が懐かしかったのか、今は既にあっちこっちを歩き回っている。

「好きに見て大丈夫だからね。私、夕飯の準備してくるわ」
「え、すみません!そうですよね。ごめんなさい忙しい時間にお邪魔して…」
「いいのいいの。夕ご飯、よければ食べていって」
「え、あ、でも」

家に弟たちが待っているので、とそこまで言おうとして、それから場地くんを見つめてみた。
オフクロの飯か、と場地くんが呟いたのが聞こえる。
私が聞こえていたことなんて気づいちゃいないだろうが、そんな声色で呟かれて放っておける人間なんて正直いないと思う。

「…一度、確認してみていいですか?父に一度確認したくて…」
「勿論。連絡が取れたら教えてね」

にっこりと人のよさそうな笑顔を浮かべて去っていくお母さんを見送ってから、仕事中にゴメン、と一言断りを入れて父に連絡する。
どうやら今日は早く上がれそうだという。
弟たちの面倒を見てくれないかとお願いすれば、父は二つ返事で快く了承してくれた。
次に家に待つ弟たちに「今日はお姉ちゃん遅くなるからね」と連絡を入れて、ひとまず伝達事項は全て消化できたみたいだった。

「場地くん」
「あ?」
「優しそうな人だね。お母さん」

根っこの部分がよく似ている。
私の隣で唇を突き出すこの男は、別に、と拗ねたような口調でそう話す。

「思春期だなあ」
「うっせ」

男子中学生にとって、母親と云々というのはNGワードだったようだ。
気持ちはわからないでもないが、それでも年齢や性別、環境で、親に対する感情なんていくらでも変わるものだ。
まぁ、場地くんは、お母さんといい関係を築いていたのだと思うけど。

「場地くん」
「なんだよ」
「部屋のアルバムとか見てもいい?」
「もう見てんのに後から許可とろうとしてんじゃねぇよ」

所々にアルバムや、動物関係の漫画なんかを見つけて思わず小さな笑い声。
よく見れば猫用のおやついれなんかも置いてあるし、きっと動物が好きなのだろう。
動物が嫌いな人に悪い人はいないと聞く。真実はどうかは知らないけど。

うっすらと埃がたまった場地くんの自室。
この部屋が時を進めることはもう無い。
それでも愛おしく感じるのは、この場所が場地くんの生きた証だからだろうか。

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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時

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