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趣味はなんだとか、好きな食べ物はなんだとか、付き合っている人がいるのだとか、そんなことばかりを矢継ぎ早に聞かれて時間が経った。
妙に気疲れしたお昼時間だったと息をつく。
不思議と嫌ではなかったものの、いつもと違うエネルギーを消費するのは楽じゃない。
終業のチャイムを聞いて、いつものように学校を飛び出す。
昼食を共にした彼女は、そんな私にゆるく手を振っていた。
彼女が予想を立てたことは半分正解で、半分不正解。
私が早く学校から帰るのは、一秒だって早く母に会いに行きたかったからだ。
…今までは。
「なんか、長いようで短かったよね」
「だなあ。最初はどうなるかと思ったけど」
「楽しかった?」
「ま、悪くはなかったな」
「なら、よかった」
いつも、母に会うためだった道のり。
いつしか、場地くんとその道を歩くのが楽しみになっていた。
彼のお願いの為に、二人で作戦を立てるのも楽しかった。
どれだけ願っても時間は有限で、必ず終わりはやってくる。
それでもいいと思えるくらいには、私は場地くんにほだされていた。
「場地くん」
「なんだよ」
「場地くんのお願い聞いてあげたからさ、今度はあんたが私のお願い聞いてよ」
これは、私の賭け。
断られたらここで終わりにしよう。
綺麗さっぱり忘れて、場地くんと過ごした日々を思い出にしよう。
そっと、そんな願いみたいな、祈りみたいなそれを込めて投げた言葉に、場地くんは一瞬面食らったように目を見開く。
それから数秒、考えるようなしぐさをしてから「いいぜ」とはっきり、口にした。
「…じゃあ次の日曜日ね」
「急だな」
「場地くんは暇なんだからいいでしょ」
「オレのことなんだと思ってんだよ」
うんと、思い出になる一日にするのだと、心に刻んだ。
次の日曜日。12月18日。
私はきっと、場地くんが見えなくなる。
私が見えなくなるだけじゃない。きっと、もっと、彼は遠い所へ行ってしまうのだと、確信めいたものがそこにはあった。
彼と言葉を交わすのは、それが最後。
私は、突然人が熱を失って、言葉を交わせなくなる辛さ悲しさを知っている。
もう二度と話せなくなるのがわかるなら、何かそれまでにできる事はないかと足掻くことが出来るのもわかっていた。
「日曜日は星を見にプラネタリウムに行こう。終わったら水族館に行って、陽が沈み切る前に帰ろう」
「プラネタリウム?」
「そ。都会の夜は明るいから」
そっと気が付かれないように触れた手は、繋がれることなくすり抜けた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時