10.ホッチキスと願い事 ページ10
「ほ、本当か!?い、いや、でも…」
目を輝かせて、ずいと顔を近づけてきた。
余りにも近すぎるその距離に頬が熱くなってしまう。
「いいよ、貸すよ」
その顔が彼の目にも映ったのか、我に返って照れ隠しするように眼鏡を整える仕草にきゅんとトキメキながらホッチキスを渡す。
「…ありがとう」
「うん!」
「まさか白雪が持っているなんてな」
緑間君が教室へ帰っていった後、赤司くんが驚いた、なんて言いながら話しかけてきた。
じゃあ少しは驚いた素振りをしてくれてもいいのになんて。
「この前買ったんだよね」
「はあ」
笑いながら答える私に生返事を返す赤司君。
これは…。
「あ、今絶対変な趣味だと思ったね?」
「思ってないさ」
「ほんとに?」
「あぁ」
「ほんとのほんとに?」
「…あぁ」
「ほんとのほんとのほん──」
「ホームルームが始まるぞ」
誤魔化したな。
この無意味な思ってる思ってない戦争に終止符を打たれた。
それも無理矢理。
赤司君らしいと言えばらしいけれど。
別に変な趣味だと言ってくれてもいいのに。
くすくすと笑みを漏らしながら前を向いた。
*
掃除当番ということで教室に溜まったゴミ袋をゴミ捨て場に持っていく作業。
こういう仕事を任されやすいのは前世の受け売りか。
別に慣れたからいいけど、とイラッとする気持ちを誤魔化す。
そんな時
「あ!A」
私の天使小町が体育館から出てきた。
ゴミ捨て場までの道は、体育館の前を通らないといけないのだ。
「お、部活?」
「うん!」
小町はあのバスケ部のマネージャーに入っている。
少しでも小説に寄せようというのか、普通は私が入るはずの部活に彼女が入っている。
私の問いかけに元気よく頷いた彼女はその後、少し表情を曇らせた。
「Aは部活入らないの?」
「あ、うん」
「そっか…」
キューンと寂しがる子犬のような小町。
母性本能をくすぐられる。
「うん?」
「いや、一緒に部活やりたいな〜って…」
お互いの手の人差し指をツンツンと突き合わせ上目遣いで私を見てくる小町はここにいる誰よりも可愛い。
ほら、あの男子顔真っ赤にしちゃってる。
「ごめんね」
だけど。
必要以上にキセキと近づくのはタブーだ。
自分の身の危険性が高い。
だから、ごめん、だ。
「んーん!気をつけて帰ってね!」
「うん!」
先程の悲しい表情とは一転、明るい笑みを作り、パタパタと手を振る彼女に振り返し、私はゴミ捨て場に向かった。
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天 - 凄く面白いです!更新頑張ってください! (2020年11月20日 16時) (レス) id: e6de3d2e77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しお | 作成日時:2020年7月5日 18時