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私が最後に泣いた日。 ページ1

「逃げなさいA」

水世(みなせ)を、頼む」


両親のその言葉に、私は走り出す。

意識のない妹を抱え、振り返ることなく走る。

冷たい雨が顔にあたる。

視界が滲む、でも足を止めない。

後ろで何かが飛び散る音がする。

何が飛び散ったなんて、中学生の私でも分かった。


「生身の人間如きが逃げられると思うなよ」


後ろから男の声が聞こえたと思えば、背中に痛みが走る。

それでも足は止めない。

それを見た男は私の左足を切り付けた。


『あっ』


よろけた私は妹を抱えたまま転がる。
体格に差がない妹を庇いきれず、妹にも擦り傷ができてしまった。
そして直ぐに起き上がり、後ろを振り返る。


「滑稽、実に滑稽だ」


桔梗色の瞳が哀れみを込めて私を見る。


「さあ、その子供を寄越せ」

『...』


私は無言で妹を自分の方へ抱き寄せた。
何も出来はしない、でも抵抗しない訳にはいかなかった。妹を私に託した、両親の為にも。


「そうか、それは残念だ」


男はその手に光る刃物を握ると、それを振り上げた。


「無駄死にだな」


そう言ってその刃物を振り下ろす。
私は死を覚悟し、目を瞑る。
しかし、新たな痛みはやって来ない。
恐る恐る目を開けると、そこには私達に背を向けて立つ人物が居た。


「チッ、戦闘員が居たのか」


桔梗色の瞳をした男は、不機嫌そうに顔を歪める。
そして、その目で私を見ると今度は愉快そうに笑うのだった。


「護ってみるがいいさ、護れるならな」


そう言い残し、消えて行った。

呆然としている私を心配したのか、背を向けていた人物が振り返り私と目線を合わせた。


「...良く、護ったな」


そう言って、眼鏡をかけた男の人は笑った。
眼鏡越しでも分かるその優しい眼差しに、優しい声色に私は堪えていた涙が堰を切ったように流れ出した。




______私が泣いたのは、あの日が最後だった。

高槻姉妹→



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綺世(プロフ) - お抹茶。さん» コメントありがとうございます!素敵な作品と言っていただけてとても嬉しいです。モチベーション上がります⤴︎まだまだ完結まで時間がかかりそうですが、最後まで見届けて頂けたら幸いです! (2021年12月25日 1時) (レス) @page38 id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
お抹茶。(プロフ) - コメント失礼します。素敵な作品に出会えて嬉しいです!私が夢主ちゃんの立場だったら水世ちゃんの事今更何だろうって思っちゃいますね...。これからどんな展開になっていくのか凄く気になります!応援しています! (2021年12月24日 8時) (レス) @page37 id: 58d51f3323 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!読んでいただけて光栄です。どのような結末になるのか、最後まで見届けて頂けたら幸いです。 (2021年12月21日 22時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
白雪 - コメント失礼します。とても私好みの展開で一気に読んでしまいました。個人的には夢主は今まですごく辛い思いしてきたので、水世ちゃんが謝罪して元通り…………はならない気がしますね。何かもうひと波乱あって逆の立場になりそうこの姉妹。 (2021年12月20日 18時) (レス) @page23 id: 567a821487 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - ばぐさん» コメントありがとうございます。作品、拝読させて頂いています…コメントを見た時に驚いてしまいました…!!どうぞ最後まで見届けて頂けたら幸いです。 (2021年12月20日 3時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綺世 | 作成日時:2021年11月2日 17時

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