十三曲目 ページ13
｢何が”俺の占いではそう出ている”よ、バッチり風邪ひいてるじゃない｣
｢...すまない｣
ベッドの上で横になり、顔を赤く染めあげた男に私は呆れたようにそう言った
間欠的に言えば、海之が風邪を引いたのだ
時は昨日の夜に遡る
喫茶店を後にした私たちは、適当にふらつきながら芝浦淳について策を講じていた
｢...そう...穏便にはいかなそうね。あちらが城戸君のカードを持っている以上、下手には動けないし｣
芝浦淳は相当頭がキレるタイプのよう
挑発も上手そうだったし、かなり厄介な相手らしい
｢今日はもう遅いから、家に帰りましょう｣
話し合いを一度取り止め、私は海之にそう提案した
なんだか少し肌寒くなってきたしね
こんなことなら、もう少し着込めば良かったわ
なんて考えていると
｢え｣
バサりと掛けられる大きめのジャケット
｢ちょっ、海之。これじゃあ、貴方が.....｣
｢俺は大丈夫だ｣
｢でも、もし風邪でも引いたら...｣
｢引かない、俺の占いではそう出ている｣
と、いうわけで
風邪を引いたのは、海之が強がったってのもあるけど
私にジャケットを貸したから、というのが一番の理由
つまり、私のせいでもあるので
これ以上はガミガミ言わないことにしよう
｢最近、忙しかったから、きっと休めってことよ｣
時には休息だって必要よね
うん、きっとそうよ
｢じゃあ私、お粥作ってくるから｣
そう言って立ち上がろうとしたときだった
｢悠貴｣
腕を掴まれ、中腰のような体勢になる
鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの距離の近さ
時折顔にかかる海之の熱い吐息が変にこそばゆい
｢行くな｣
｢どこにも行かないでくれ｣
弱々しい声、今にも泣き出しそうな表情で私を見る海之
久しぶり、というより、初めてかもしれない
海之が誰かに弱味を見せるなんて
｢...今日は随分と甘えたさんね｣
私はそう言って床に座り直し、海之の両手を握り直した
｢分かった、貴女がそれを望むなら傍にいるわ｣
｢そうか....なら良かっ...た......｣
安堵をしたのかそう呟き、海之はあっという間に眠りについた
私は再び海之に目を向ける
｢ふふっ...可愛い......｣
普段は年よりも大人びている彼だけど、寝顔はすごく子どもっぽいのよね
｢おやすみなさい、海之｣
嗚呼、どうか夢の中だけでも
彼に安らぎを
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作者名：狗犬 | 作成日時：2023年1月7日 18時
