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アズールと監督生が契約を結んだ。チェーノがその事実を知ったのは、オンボロ寮の入口の前で呆然としている1人と1匹を見つけた時のことである。
何やら人魚お得意(？)の話術で取引を持ち掛けられたかと思えば、あれよこれよの内に寮を担保にされ、遂にはジェイドとフロイドに建物を占拠されてしまったのだとか。
いつものように仕事が終わり寮に戻る道中で、最早動揺を隠さず此方に声を掛けてきた監督生が語ったことだ。ただし、同じオクタヴィネルであるチェーノに何か対応を求めるというよりは、兎に角話を聞いてほしいと言いたげな様子だった。
「すみません、愚痴みたいになっちゃって。チェーノ先輩の顔を見ると安心して気が抜けちゃうんです」
『ユウくんの気が済むのなら、それでいいよ』
「はぁ〜せんぱいほんとマイナスイオン…」
ちなみに言うと、オンボロ寮の周りで頻繁に彼と出会うのは、此処が学園外から帰って来てすぐに辿り着く校門のそばにあり、尚且つ最短の距離で鏡舎に向かえる道のりだからだ。ただの廃墟だった期間が長すぎて殆ど誰にも知られていないが、実は様々なルートの近道としてうってつけらしい。
テスト期間の合間にしていたそんな雑談を思い出しながらも、監督生は住処を失った現実を振り返り途方に暮れる。
無謀な勝負に挑んでしまったことは十分承知しているが、とはいえ易々と住処を奪われ好き勝手にされたままでは堪らない。暫くはチェーノと話すのも控えた方がいいのだろうかと悩んでいると、思いがけず彼の方から話が切り出された。
『あの子たちの力は本当にすごいんだよ。お願いごと、叶えてもらえるといいね』
「ははは…ほんと頑張りマス」
チェーノは、問題児の蔓延るNRCにおいては類稀なる事勿れ主義だ。
これまで少しでも他者を貶めることになるような言動をしたことがなかった。そんな事実を見事に反映したあまりにも純粋すぎるコメントに、あわよくば弱味を知れるのではないかと考えた自分とを比較して良心が痛んだ。
のほほんと後輩を褒める口振りからしても、彼は今回のイソギンチャク事件に全く関わっていないようである。噂にも聞いてはいたが、人の望みを叶えるというアズールの実力は本物なのだと、チェーノの発言で改めて実感する。
しかし、目の前で柄にもなく落ち込んでいるグリムのためにも、何としてでもイソギンチャクを取り払い、再びオンボロ寮で生活できるようにはしてやりたい。監督生は密かに闘志を燃やした。
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作者名：YAS | 作成日時：2022年9月30日 17時
