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『ぼくに何か、用事があったのかな？』
「あ、あの。実はですね…」
先程の出来事により一周まわって冷静さを取り戻した監督生は、果たして今から言うことが本当にチェーノに頼んでもいい案件なのか不安になってきて口篭る。
そもそもの話、チェーノは世界規模で人気な音楽家なのだと言う。そんな人、絶対に忙しいに決まっているではないかと。学生とはいえ場合によっては教師よりも寝る暇もない可能性のある彼に、勉強を手伝ってほしいとかいうちっぽけな悩みを聞いてもらえるのかと考えてしまったのだ。
"悩みがあれば力になる”という言葉自体が嘘ならばそれまでだが、チェーノに限ってはあの発言がお世辞やその場凌ぎで放ったものと思えなかった。だからこそ、例え迷惑だったしても手を貸してくれそうで、嫌な顔ひとつせず向き合ってくれそうで、申し訳が立たない。
先程とは打って変わってしおらしくなってしまった監督生に、チェーノはそんな後輩が持っている学習道具の数々を見て何かを察したようだった。そして、『ユウくん、少し聞いてほしいことがあるんだけれど』と、先回りをして申し出る。
『ぼく、試験が近づいた時はいつも学業に専念させてもらっているんだ。だからお仕事はおやすみ。いっぱいゆっくりできるよ』
「え？…それって、」
『ふふ。ユウくんがいいのなら、しばらくの間いっしょにお勉強しようか』
その言葉を咀嚼するかのように瞬きをした後、監督生はにぱっと顔を明るくさせた。
正に切望していた展開へ、それも双方後腐れがないように丁寧に配慮した上で導いてくれたチェーノの優しさに心が沁みる。ここまで来たら、「やっばりいいや」と遠慮して引き下がってしまうことの方が失礼にあたるだろう。
「ありがとうございます！自分基礎から全然分かってなくて…きっとたくさん迷惑をかけちゃうと思うんですけど、」
その言葉にもチェーノは気にしないでと言わんばかりに微笑んだ。流石は3年の学年首位なだけある。躊躇せず彼に頼みに行こうとここまで出向いた自分自身の行動力を思わず誇った。
そして、これから嫌ほどある課題に手を付けなければならないというに、監督生は既に何とかなるのだろうという期待と自信で胸を弾ませるのだった。
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作者名：YAS | 作成日時：2022年9月30日 17時
