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突如として自分の名前を呼ばれたことに、肩を揺らして驚く。
呼んだ零はというと、ほんの少し視線を別の方向に向けた後に少女を真っ直ぐ見つめながら、変わらぬ声と態度で
「我輩は嬢ちゃんが好きなんじゃよ。」
と、微笑みをなげかけながら伝えた。
『それは何時も言って─…』
「そうじゃよ。特別な嬢ちゃんにしか、毎度の様に愛は伝えておらんよ。」
『特別…。』
「恋人じゃな。」
遠回しな言い方に飽きを感じた零は、ばっさりと直球にそう言った。
『こっ、恋─？！』
理解しないように、気付かないように、このまま鈍感なフリをして、話題を逸らしてしまおうかと考えていたのだが、途端に逃げ場を無くされ声が裏返る。
「将来運命的な人を見つける、嬢ちゃんの言うそれは、過去の我輩にとっての将来。つまり今、ということじゃよ。」
『私が言ってるのは、今の朔間さんの将来であって』
「この先、嬢ちゃん以外に運命を感じる者とは出逢わんよ。そんなにぽんぽんと運命が見つかるなら、それは最早運命ではないじゃろ。」
『そ、それは…そうですけど。』
零の真っ当な意見には、何時も歯が立たず、どれだけ反論する為のカンペを持っていようと最終的には豊富な語彙と経験らによって打ち破れてしまう。
これは普段のような口論とは話が違う。
即ち、零の未来に、将来の道に自分が乗っかるということ。
先日のように迷惑をかけてしまう自分が、目覚しい彼の活躍を奪ってしまうのではないか。
活躍だけじゃない、私生活にまで踏み込むことになる。
もうお互いに幼くはない。
かといって、零をフるのは…嫌なのだ。
どうしたら良いのか、思い倦ねている少女を零は表情を崩さずに見守っている。
「俺は嫌か？」
そこでふと、思い出した。
自分が何故あそこまで曲を燃やされて、悔しかったのか。
零に見せると約束し、書けない自分を見捨てないでいてくれた零の気持ちを信頼を裏切りたくなかったからだ。
それに、零を守りたいと思ったから。
確実に力にならない事は明白なのだが…。それでも、微力ながらに役に立ちたいと思っている。
彼が自分を信用して、特別だと言ってくれている。
普段は自分の心根の話などしない零が、だ。
私にとって、零は特別。
私の曲を、歌を、私自身を認めてくれる。
私の想いは固まった。元から固まっていたのかもしれない、言えなかっただけで。
零と目線を合わせ意を決して口を開く。
『い、嫌じゃない…です。好きです。』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
