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零の顔を見た途端に、少女の瞳が潤み、目元に涙が光った。
そんな顔を見た零はぎょっとして、瞬きを一二回した後にもう一度「嬢ちゃん」と心配そうに名を呼んだ。
少女は顔を伏せ、情けない姿を見せまいとして掴まれた腕を振りほどき、小さく会釈をして走り出す。
状況を理解出来ずにいる零は呼び止め続けるが耳も貸さず、この場を離れようと遠ざかる少女を見て
只事では無い雰囲気を感じ取った。
そして、走り出す。
少女を追って。
「嬢ちゃん！待っておくれ！」
「嬢ちゃん！」
少女は後ろを振り返らず、ただ前を見て走り続ける。
本当は零を見た時、全てを吐き出してしまおうとさえ思った、音楽室へ行けなかった事も謝りたかったのだが、変な意地がそんな自分を殺して、その場から逃れる事を選んだ。
背後から聞こえる零の声がする。
それを聞く度に涙が頬を伝う。
何時の間にか校舎裏まで来ていて、切れる息を整えるように蹲る。
濡れた頬の涙を袖で拭って、煤けたファイルを見つめた。
中には灰が詰まっている。
少女にとって唯一無二の零との過去までも燃やされてしまっている、もう元には戻せない。
開き直って、幾らでも曲は書き直せると言う事は出来るだろう。
だが、そこに思い出も思い入れもない。
それこそ記号の書かれた、ただの紙だ。
ファイルを横に置いて、溜息をついた
その時──
「はぁ、っ、やっと…見つけられたようじゃな、」
頭上から掛けられた声に見上げると、肩で息をしながら壁に片手を着いた零が居た。
身を引こうと慌てて立ち上がり、背を向け再び逃げ出そうとする。
だがその腕を強く引かれる。
「っ、待てA！！」
何時もとは違う剣幕で引き止められたのと同時に、焦りを帯びた声色と、呼ばれた自分の名前にはっとして零を見る。
『─っ…！！』
「っどうした、なんかあったろ。」
問い掛けてくる零の口調は、少女が昔からよく聞いていたものに戻っている。
少女は目を合わせず首を振って、何も無いと訴える。
その応答に零は納得がいっていないようだった。
「嘘ついてんじゃねぇよ。そんな格好で、顔で言われても説得力ねぇっつーの。」
『なん、に、もない…』
変な意地を張ったせいで、後に引けなくなり何度も嘘をつく。
「じゃあこの地面に転がってるコイツはなんだよ。」
『それ、は…』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
