12 ページ12
それこそ、零と少女が居ないと思っている彼らにとって、空の音楽室から突如鳴り響く鍵盤の音は
恐怖と共に全身を駆け抜け、口々に慄いた。
意図せずして鳴ってしまった音は、彼らの耳には悲壮やら憎悪やらを纏った物に聞こえ、余計に噂を強めるきっかけになってしまうのだった。
少女はまたもや自分の行動によって引き金を引いてしまったと、外でバタバタと走り去る音をやや諦めの顔をして聞いていた。
また大きな溜め息を、両手で顔を覆いながら一つ。
「くっくっくっ…不運じゃのう、嬢ちゃん。」
そんな様子を見ても尚、面白がって笑う零。
『なんで何時も、な、ぐぅ…。』
言葉に表せない、怒りや物事が思う通りにいかないもどかしさにうち悶えた。
「学院の七不思議、少女霊と血肉に飢えたヴァンパイア…良いではないか。」
『良くない…。全然良くないですよ!あぁあ…噂が更に広まって…』
少女は頭を抱え、今後自分に起き得る未来に対して負の憶測を立てて沈みこんだ。
「我輩の知る学院の謎に嬢ちゃんが新しく追加されたということじゃよ。」
『最悪だ…』
「ほれ、そう落ち込むでないぞ。嬢ちゃんに影響があるようにはせぬ。安心せい。」
零は少女を宥め、書きかけの楽譜を手に取った。
書き殴られた部分、修正の入った部分、そして白紙─
最早、勝手に楽譜を見られている事なぞ少女は気にしなかった。否、自分の置かれている現状とに比べれば零に楽譜を見られる事くらい、易いものだった。
「嬢ちゃんは流石の腕利きじゃなぁ。」
溜め息が出るほどに関心して零は少女を褒める。
少女は静かに顔を上げて、零の品評を聞く。
「我輩は嬢ちゃんが作る曲が好きじゃ。もちろん、歌も好きじゃよ。穢れや憎悪が美しい物とさえ思えてきてしまう、魔法の様なものじゃからな。」
零はそれから五分程度は、少女の曲を、いわば存在自体を肯定し続けた。
初めは無心で聞いていた少女も、流石にこれほどまでに自分を棚にあげられてしまうと、心がむず痒くって、途端に零がどうしてこんなに自分に構い出すのかを考え始めて
そんな事をしだしたら、昔の記憶やらが思い起こされて、更に恥ずかしくなった。
『…も、もういいですから!』
少女は零の言葉を遮り、止めるよう指示した。
零は口を閉じ、微笑んだ。
「まだまだ褒め足りないんじゃが。」
『もっ、もう大丈夫ですほんとに!』
「心做しか顔が赤いのう?暑いかえ?」
『暑いです!』
零はくつくつと笑った。
105人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒凛蝶 | 作成日時:2022年6月14日 16時