吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ2)

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毎度の様にその言葉を聞いているせいか、少女の口からは既に用意されていたかの様な応答が発せられた。

彼はUNDEADというグループに所属する、自称夜闇の魔王、別名吸血鬼の朔間零。

軽音部部長でもあり、音楽室には何かと縁があるのだ。

「相変わらずつれないのう…。今日は我輩、こんな日差しの強い中頑張って来たというのに…。」

少女の返答に残念そうに肩を落とす。

それは何時もの事なのに、零は淡々とする少女と違い、言われる度毎回ショックを受けている。

「頑張って来た我輩に、一曲歌ってくれないかや…？」

吸血鬼は修道士の如く両手を組み握って、首を傾げ最大限少女の機嫌を損ねぬようおねだりをした。

そんな零をちら、と横目で一瞥する。

そして─

『…いやです。』

その一言に、零は膝からがくりと崩れ落ちた。
僅かに傷心からの涙を見せ、細い指先で拭うと、零は少女に問い掛ける。

「嬢ちゃん…何故(なにゆえ)そんなに我輩の前で歌いたくないのじゃ？」

少女はまた、用意されていた言葉の羅列を声にするだけの単純作業を繰り返した。

『私はもう歌えはしません。ピアノは、趣味です。誰かに聞かせる為の歌は、曲は、詩は、書けませんし出来ないんです。』

鍵盤を指でなぞる様に触れながら、そう言う。

その横顔はどこか寂しげで、考える事を放棄し諦めたかのような、零にはそんな顔に見えた。

零は穏やかな足取りで近付き、少女が触れていた指先に重ねるように鍵盤を抑えると

美しい一音が花が一輪咲くように鳴り響いた。

温かな、ピアニシモである。

「嬢ちゃんの声が、我輩は好きなんじゃがな。」

『…お世辞として受け取っておきますね。』

「我輩嘘はつかんよ。」

少女に向かって、微笑みかけると
その笑みの裏側を知っているからか、何とも言えない、強いて言うなら苦虫を潰したような顔をして

零の顔前に人差し指を立て、

『それが既に嘘じゃないですか。』

と言い放つ。

「えぇ…？我輩ショック…。」

『それに、私がピアノ弾いてる所見てるじゃないですか。知ってますよ、音楽室の扉の前に居ること。』

それは零自身、音楽室に堂々と乗り込んでしまうと少女の気分を害してしまうのではないか、という懸念から向こうからの入室許可を自然な流れで貰う為の一種の計画的犯行であった。

ついでにピアノも聞けて、一石二鳥を狙っているのだ。

「ぎくり。」

『ぎくりって…。』