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「それ位、嬢ちゃんの奏でる音が聞きたいのじゃよ。」
また、零は少女に微笑む。
その言葉の真理が分からず、一類の不安の様なものを感じ、少女は零から一歩退いた。
『…昔、デモテープを渡した記憶があります。それを聞いていれば良いじゃないですか。』
やや投げやりな、提案であった。
事実少女は昔に、昔といっても約一、二年程前の話なのであるが、零がまだUNDEADでなく［デッドマンズ］というグループで活動していた頃
零に曲のデモを渡した事があった。
『昔の私の方が、今よりずっと良い音で弾いています。』
自虐地味た不格好な微笑みを薄く浮かべては、過去の記憶を思い起こすが、そこに懐旧といった感情はなく
寧ろその過去が足枷となっているのか、裏を返せば永遠の呪いかの如く話す。
「今も昔も、良い音で弾いておるぞ。」
零は沈んだ少女の心を救いあげるように諭す様に、優しく告げた。
しかし、零の優しさでさえ、嘘なのではないかと疑ってしまう。
そんな自分に心底腹が立ち、嫌気がするのだ。
『私、今日はもう帰ります。…今度から夜も弾かないと思うので来ても何も無いですよ。』
学生用カバンの中にいそいそと楽譜をしまい込んでから、ピアノの片付けに入る。
流れるような言葉が完全に空気となって流される前に、言の帯を掴んで引き止めた零は驚いている。
「な、なぜじゃ、嬢ちゃん…？我輩がしつこかった性かえ…？」
少女が否定しても尚、盗み聞く真似までしてしまった事から、さては自分の性かと心配になった零は
鍵盤蓋を下ろそうとしている少女を止めに入った。
零が鍵盤蓋を持ち上げるように掴んだ瞬間、少女は弾かれたように手を引っ込めた。
『っ…！』
「あの音が聞けなくなるのは、寂しいものだぞよ。」
『…変な噂が、たっているので。』
「変な噂？」
『夢ノ咲学院の七不思議にこの音楽室が入っているんです。夜にずっとピアノを弾いていた私を見た人が、音楽室の少女霊だとかなんとかって言い始めて…。』
経緯を話しながら、少女は既に音楽室から出る寸前まで移動していた。
「その話…確かうちのわんこが話しておったな…。どうりで思い当たる節が多い訳じゃ。」
『そういう事です。それじゃあ─』
「待て待て、そう急かないでおくれ。」
『他に何か…？』
やけに零が引き留めることを、徐々に不思議に思いつつ訪ねると零はぱん、と思いついたように手を叩いてこう言った。
「我輩ひらめいた。週二でどうじゃ？」
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
