罪で結ぶ絆 2

夏の出会い ki ページ25

・







「玉に隠していたことがある」

「え？」

「ヒヨリのことだよ」



「……うん」

「前にさ、玉が言っただろ？俺が昔から
ヒヨリのことを知っていたんじゃないか
って」


「やっぱり……？」


玉の表情に、緊張が走った。


「そう、ヒヨリのことは……昔から知っ
てたんだ」





*





俺が母に連れられて、安曇野に移り住ん
で来たのは、まだ幼稚園の頃だった。

俺の本当の父親は、俺がまだ一歳の時に
病死して、それからはパートをしながら
母親が女手一つで育ててくれていた。

そんな中、当時母がつきあっていた男が
長野へ転勤となった。母はそれを機に再
婚を決め、俺達は長野にやってきた。



豊かな大地と豊富な清流。扇状地に広が
る水田は、田植えの季節になると水が張
られ、その水面は鏡のように北アルプス
の山々や青い空を映し出す。

とにかく長閑で、景色はくっきりと澄み
きり、何もかもが美しい所だった。







その家族がうちの隣に引っ越して来たの
は、俺が小学一年の夏。隣といってもか
なり田舎だったから、隣家との距離は近
くはない。

夏休みに入ったばかりのある日。友達と
遊び家に帰って来ると玄関に人がいる。




「横浜から引っ越してきた香山です、よ
ろしくね」


俺に気づいたおばさんが、俺を見て微笑
んだ。優しそうな両親と可愛らしい姉妹
だった。




「こんにちは」


そう言い、にっこりと笑う女の子。


お揃いの麦わら帽子を被った色白の姉妹
だった。妹はまだ幼くて、俺と目が合う
と母親の後ろに隠れてしまった。

姉は俺よりもすらっと背が高く、澄んだ
瞳をしていた。きっと年上だと思った。

恥ずかしい話だが、白いワンピースを着
た彼女が、絵本の中から抜け出してきた
お姫様に見えたんだ。

今でも、物凄くドキドキしたのを覚えて
いる。



「ミツ、その姉妹がヒヨリ？」

「そう、ヒヨリがその妹だったんだよ」

「そうだったんだ……」玉はそう呟いた。



その家族の父親は、山の麓に小さい建物
を建て、手作り家具の工房を開いた。


俺は、あんなに可愛い姉妹が近所に引っ
越して来たことが嬉しくて、別にやりた
くもないのに庭で昆虫採集をしたりして
彼女が通るのを待っていたんだ。

そんな夏のある日、ついにその日が来た。






“あなたの名前は？一緒に遊ばない？”

“別にいいけど”



本当は凄く嬉しかった。有頂天になった
と言ってもいいくらいだったけれど、俺
は素っ気なく返した。





・

輝く季節 ki→←過去 ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す