罪で結ぶ絆 2

後悔 ページ19

・








「今、聞こえましたよね？」


眉をひそめてそう言い、声が聞こえた方
に行こうとする廉くんの肩をひろが掴ん
だ。


「俺が見てくるから、廉はお客様の相手
してて」

「あっ……はい」


ひろの真剣な眼差しに何かを感じ取った
のか、廉くんは頷き素直に従った。

きっとあの客だ……

エレベーターの隅で震えていた裕太。



“ 俺を庇って、ミツだけ酷い目に合わさ
　れんのもう耐えられない……”

“ ミツに絶対に迷惑かけたくないんだ。
自分で何とかするから。――約束して”




ドクン、ドクン、ドクン……
全身が心臓になったかのようだった。



浅はかだった……

トラウマを持っているのを知っていたの
に、いくら裕太に口止めされても、ひろ
に言えばよかったのかもしれない。

あの日の裕太が脳裏に浮かび、ひろに言
わなかったことを心底後悔した。



「あっ玲さん！行ったらダメですって」

「トイレだから」


廉くんの焦った声が聞こえたが、私は居
てもたってもいられなくなり、立ち上が
るとひろの後を追っていた。








ダウンライトが照らす薄暗い廊下。トイ
レの前から奥を見ると、地下室へのドア
の付近に裕太と男、そして背を向けてい
るひろの後ろ姿が見えた。





ナイフを握りしめていたのは

裕太だった……





その男は腕を押さえ、壁に寄りかかるよ
うにして立っていた。恐怖に顔が歪み、
足がすくんで動けないようだ。

怪我をしているのかもしれないが、ネイ
ビーのシャツを着ているせいかよく見え
ない。下半身は下着一枚だけだった。

裕太のシャツははだけ、胸元からは傷が
見えた。





「玉、落ち着いて」



ひろの優しい声が聞こえた。




「いっ、いきなり切りつけてきたんだっ
！僕は殺されかけたんだ！けっ、警察を
呼んでくれっ」

「そんなことをしたら、大川さんまでヤ
バいことになりますよ。良いんですか？」

「……っ！」




落ち着き払ったひろの態度に、その男は
唇を噛み締めた。



「今回の件は、私からもお詫びします。
どうか玉森を許して頂けないでしょうか」



ひろがその男に頭を下げた時――

裕太が口を開いた。





「こんなやつ死ねばいい……」





そこには私の見たことのない裕太がいた。









・

手負いの獣→←暗雲

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す