罪で結ぶ絆

一緒にいたい　ki ページ33

・







何で今……そんな昔のことなんて思い出
したんだろう……




思えばあの時から、いや……もっと以前
から俺の歯車は狂っていたんだと思う。

　静まり返った室内で、俺は煙草をくゆ
らせながら、ぼんやりと昔に思いを馳せ
ていた。

玲さんを見れば、ベッドで気持ちよさそ
うに眠っている。




そろそろ帰るか……


大きく紫煙を吐き出して、短くなった煙
草を灰皿に押し付けると、間接照明の灯
りを最小に絞った。








　帰る準備をしてシャツをはおり、鞄を
持って部屋から出ようとした時だ。





「帰るの……？」





薄暗い部屋から、寝起き特有の掠れた声
が聞こえた。



「あ……起こしちゃった？」

「……ひろ、帰っちゃう？」

「あぁ、俺、明日は午後いちで仕事ある
　から、タクってこれから帰ります」

「朝までいてほしいって言ったら？」


「え……？朝まで？」

「お願い…チップもまだ払ってないし」



　チップは、客と会った時に直接貰うこ
とになっていたが、なぜか玲さんからは
貰う気がしなかった。

俺が戸惑っているのがわかったんだろう



「私、お金なら持ってるから……ちゃん
　と支払うよ？」



そう言ってきた。



　玲さんの声はどこか弱々しくて、傍に
居てやりたいって、そんな気持ちが芽生
えたのも本当だった。



「ひろとまだ一緒にいたいの」

「じゃあ、俺……朝一で帰るけど……
　それでもいい？」

「うん、わがまま言ってごめんなさい」

「いいよ、大丈夫……まだ夜明け前だし
　これから寝るでしょ？」

「うん……でも何だか眠れなくて……
　ひろは寝ていいよ」


「玲さんが起きてるのに俺だけ眠れない
　って。少し話でもする？」



俺がそう言うと、彼女はにっこりと笑っ
た。そんな彼女を可愛いと思う。



「ひろ……身体、綺麗にしてくれたの？
　ありがとう……」

「いいって」

「何だか恥ずかしいな」


　ブランケットをぎゅっと手繰り寄せ、
その中に入り込んだ彼女の隣に、ごろん
と横になった。



「あの……ひろの身体の傷のことなん
　だけど」

「うん？」





「背中のスカリフィケーションのこと、
　訊いても？」

「あぁ……これ？良く知ってんねスカリ
　フィケーションなんて言葉」

「え……と、私の知り合いが腕にやって
　たの」


知り合いが腕に？


ふーん……ОＬの玲さんに、スカリフ
ィケーションをしている知り合いなんて
いんの？

喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。







・

贖罪　ki→←生きる意味　ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す