記憶の底 ページ4
・
季節は、春だったように思う。
今思えば、実際に聞こえたわけではな
かったと思う。けれど、あの時は確かに
聞こえた気がしたんだ……ドクドクと流
れる命の音を。
”ほら聞こえるよ”
”本当に？”
”ここ、耳を澄ませて……どう？”
”本当だっ、聞こえる！”
樹に耳をぴたりとくっつけて、その音
を聞きながら笑いあった男の子……
あれは――……誰？
再び、こめかみがズキンと傷んだ。
豊潤な土と、風の香り。
もう戻らない、美しい夏の日……
春になると、庭のあちこちで咲き、風
に揺れるアネモネの花。ふわりと懐かし
い庭の景色が甦った。
あの街で、あの家で過ごした日々は、
何故か霞がかかったような記憶の奥底に
沈んでいる。
昔に想いを馳せれば、断片的に現れる
その男の子。
そして華奢な背中と大きい傷。
それはまるで、十字架を背負ったよう
な――クロスの形をしていた。
あの背中は、誰の背中だったのだろう？
郷愁を誘い、時と共に薄れゆく記憶。
霞がかかったように、どうしても思い
出すことが出来ないでいる懐かしく遠い
日々。
私の家族の誰も、背中にそんな傷など
なかった。あの背中は、あの男の子か、
その妹のものだったのかもしれない。
私は、ズキズキと脈を打つこめかみに
手を当てた。
* * *
私には、両親が死んだ時の記憶がない。
当時、私は小学５年生だったから、記
憶がないというのはおかしな話だとは思
う。けれど、本当に記憶がないのだ。
私の家族に起きた１２年前の悲劇。
それは深夜に起きた突然の火災だった。
私の両親は、私が小学５年、妹がまだ
幼稚園の年中の時に自宅で起きた火事で
死んだ。
私と妹はその時家にいたが、奇跡的に
命からがら逃げだしたんだ。
山の麓の小さな工房の家具職人だった
父は、その日は深夜近くまで工房におり
火事の知らせを聞いて直ぐに駆けつけた
らしい。
そして、母親と私たちを助けるために
燃え盛る家の中に飛び込み、それっきり
戻らなかったと聞いている。
幼い妹を連れて、まだ子供だった私が
どうして逃げ果せたのか？
その時の記憶が、完全に欠けていた。
私たち姉妹は救急車で運ばれ、私の意
識が戻ったのは病院のベッドの上だった
らしい。
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siori(プロフ) - れいさん» れいさん、初めまして。フラグの部屋は、R18指定があるので設定が必要な為コミュに登録していないと見られないのです。サイトのルールなので申し訳ないのですが年齢が大丈夫であれば登録すれば読むことは出来ます……。 (2019年9月22日 21時) (
レス) id: 25b2988e99 (このIDを非表示/違反報告)
れい - ※の続きが読みたいです。もし宜しければ見方を教えていただきたいです (2019年9月22日 11時) (レス) id: 1d3b0a592d (このIDを非表示/違反報告)
永瀬なつ(プロフ) - ※の続きの見た方が知りたいです(´･ｪ･`) (2018年12月25日 22時) (レス) id: 579642299a (このIDを非表示/違反報告)
キラみつ(プロフ) - ※の続きの見方教えて頂きたいです！！ (2018年10月18日 19時) (レス) id: 4ba300fb0f (このIDを非表示/違反報告)
m228evanescent8(プロフ) - とても引き込まれる内容で楽しく読ませて頂いてます。※の続きの見方おしえてください！ (2018年10月18日 9時) (レス) id: 834a07e579 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：siori
| 作成日時：2018年8月17日 12時
