18.お父さんの本 ページ18
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北山さんの仕事部屋は天井まで届きそうな本棚に囲まれていて、机の横の棚には様々な種類の墨と硯が置いてあった。
「あの……やっぱりちゃんと墨を磨るんですよね?」
「墨汁を使わないのかって意味?」
「そうです」
「墨は手で摺って粒子を細かくしないと良い色、良い伸び方はしないんだ。書は墨色一色の世界だろ?本当に美しい墨色を使わなければ到底他の芸術に歯がたたないよ」
なるほど……
さすが書家さん。
『 書 』の事になると、熱くなるのかな?
「北山さんの作品見てみたいんですけど……」
「作品はないよ」
「え?」
「昔書いたものは、もうない」
辺りを見回してみても、自分の作品を飾ったりしてはいないようだった。
北山さんは、煙草に火をつけて私を見た。
「今、俺は依頼されてラベル書いたりして暮らしてんの。桐谷さんには悪いけど、有名な美術雑誌なんかに載せられるものは書けないよ。俺以外にも若手で才能ある書家は沢山いる。他あたって」
こちらから話すまでもなく、目の前でシャッターが下ろされた気がした。
なんとなく気まずくて……
部屋を見回すとたくさんの書物。
「見てもいいですか?」
「ああ」
私は壁の本棚が気になり、少し近づいて見てみた。
「あれ?」
「ん?」
北山さんが顔を上げた。
本棚の上の方にある”北山 伊織”の文字。
北山さんのお父さんの書の本だ。
「これ……」
背伸びして取ろうとしても背が低くて届かない。その時、後ろから手が伸びてきてふわりとその本を掴むと私に渡してくれた。
煙草の匂いにドキッとする。
「あ、すみませんっ」
「そんな本、興味あんの?」
「これって、北山さんのお父さんの本ですよね?」
「ああそう。もういらないからやるよ」
そっけなくそう言うと、机に戻ってまた書きだした。
「え?いらないんですか?」
「親父はもう死んだから」
「だったら余計いただくわけにはっ、」
「悪いけど、もう見ただろ?帰ってくれない?」
少しだけ近づけたと思ったのに、また北山さんが遠のいた気がした。
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siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、お返事遅れてごめんなさーい!また来てくださったなんて感激です!星も嬉しいです。また書道やってほしいですね! (2021年3月3日 19時) (レス) id: ad892650f9 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - 久しぶりに書道家の北山さんに会いたくなって来ました。いいね☆していなかったみたいでごめんなさい!右☆をポチッとさせて頂きました! (2021年3月1日 0時) (レス) id: a0721de2a5 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさーん!お待たせしました!パス付きの方は夜には外せると思います!遅くなってごめんなさい! (2020年7月5日 16時) (レス) id: 05c0397959 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - ありがとうございます。明日明後日にはと仰っていたのでずっっと楽しみにしていました!これから読めるのが楽しみです。 (2020年6月5日 1時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、お待たせしましたー!2のパスワードを外しましたのでお知らせします。大好きと言って下さり感無量です!涙 (2020年6月5日 1時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2016年6月4日 13時