陸拾漆 ページ21
衝撃の方へ首を向ける。
そこにあった気配は黒く、赤く、禍々しく揺らめいていて。
殺気が向けられる。
気迫に押されそうになる。
ただその気迫、殺気は私や煉獄さんにではなく、倒れた炭治郎君に向けられていた事に気付いた時。
凄まじい速さで気配が近付く。
迷う間もなく、反射的な本能に従うまま刀を抜く。
煉獄さんも同じだった。
炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天
音の呼吸 肆ノ型 弧円
二つの型が繰り出される。
ただその鬼の身体は硬かった。
少し斬る速度が削がれてしまったが、煉獄さんの斬撃がそれを補ってくれた。
鬼は身体を斬られ、素早い速さで後方へ引く。
『…っ』
「A、気を抜くな」
『…えぇ』
煉獄さんが私の前に立つ。
私は炭治郎君を守る様にその場で刀に手を掛けて置く。
「いい刀だ」
鬼は、そう言った。恐らく煉獄さんにだろう。
禍々しい気配に私は少し顔を歪めた。
「なぜ手負いの者から狙うのか、理解できない」
「話の邪魔になるかと思った、俺とお前の。…そうだな、そこの女とも」
「彼女は尤も、君と俺が何の話をする?初対面だが俺はすでに君のことが嫌いだ」
なぜ、私も話をせねばならないのだろう。
兎にも角にも、私は炭治郎君を守らなければならない。
今はそれに集中だ。
…この気配は、間違いなく上弦。
先の鬼とより格段に気配が違う。
気を抜けば私は即座に殺されてしまうだろう。
「そうか、俺も弱い人間は大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る」
「俺と君とでは物ごとの価値基準が違うようだ」
「そうか、では素晴らしい提案をしよう」
「お前も鬼にならないか?」
「ならない」
煉獄さんは即答だった。
それもそうだ、誰だって望んで鬼になろうとは思ったりもしない。
「そこの女はどうだ、気は進まないが」
『…無論ならない、断る』
気が進まないのならなぜ進める。
ないがしろに言われている様で、少し腹正しい。
「見れば解る、お前の強さ。柱だな?その闘気、練り上げられている。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座。杏寿郎、なぜお前が
「人間だからだ、老いるからだ、死ぬからだ」
「鬼になろう杏寿郎。そうすれば百年でも二百年でも鍛錬し続けられる、強くなれる」
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作者名:ゆず招き猫 | 作成日時:2019年11月30日 16時