98 繰り返す過去。 ページ39
side.S
「ほーら、お寝坊さん」
気付いたら智くんの声が聞こえた。
目は開けていないはずなのに智くんは意識が戻っている事に気付いてる。
「寝坊じゃないけど…」
ゆっくりと目を開くといつもの優しい笑顔をした彼がベットの横に座っていた。
吸い込まれるように捉えた智くんの瞳を離すことがなかなか出来ない。
「おはよう、翔くん。今は何ともない？」
「うん、なんともないよ、大丈夫。また心配掛けちゃって…ごめ、んっ」
ごめんと口に出そうとした瞬間に智くんの指が俺の唇に当たる。
その動作から何が言いたいのかは分かる。
「助けてくれて、ありがと」
俺がごめんと口にすれば智くんも皆んなも悲しそうな顔をする。
『翔くんは何にもしてないだろ？だから謝んな』ってそう言って俺の頭を撫でてくれていた。
俺が起き上がろうとすると一度は呆れた顔を見せるが直ぐに支えて起こしてくれる。
「無理すんなって言ってんのに、翔くんにはホントに意味のない言葉だよなぁ」
「そんな事言いながら、こうして起こしてくれてるじゃん」
「何言っても無駄だって知ってるから。翔くん、昔から頑固だし」
頑固って…智くんには言われたくない。
絵を描く事に夢中になり過ぎて食事をまともに取らなくて潤にこっぴどく怒られたのに懲りずに絵を描き続けたのはどこの誰でしたっけ？
「それは昔の話だろ。ほらっ」
智くんは、ぽんと胸を叩きその腕の中に気付けば収まっていた。
「なんでも言いから、話してみな」
智くんの温もりに包み込まれると守られているとかんじる。
この人は一生俺の愛する人だ、と。
「最初は、少し頭痛がする程度だったんだ。でも薬も飲んだはずなのに治まる気配もなくてさ」
それどころかいつもの症状まで出てきて物凄く焦っていた。
焦ったところで寒さ治まるわけでもないのに、どこか冷静だった俺はいつもとは少し違うことに気付いたんだ。
『ちょっと行ってくるね。すぐ帰ってくるから』
あの時の智くんの声が聞こえる。
俺の元から離れて行く智くんの声。
「置いて、かないで…智くん…嫌だ、いや、」
「大丈夫。翔くん、俺はここに居るよ。ほら、ここに居るよ」
思い出していただけなのに、パニックになりかけて智くんを探してしまう。
彼の腕の中に居るはずなのに、誰よりも優しさを貰っているはずなのに。
これ以上、俺は彼に何を求めるのだろう。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
