96 隣を見つめる。 ページ37
side.A
病院に着いて、何も考える事も出来ないはずの頭は自然と俺の足を動かした。
走って走って救急を目指す。
車を停めている松潤を待つ余裕はなく俺の後ろに居るであろう風間ぽんのことも放ってひたすらに走る。
処置室の前のベンチにほんの少しだけ腰を掛けてる大ちゃんと壁に手を付き嘆いているニノ。
翔ちゃんがどうなったのか、それだけが不安で。
「ねぇ、翔ちゃんは？大丈夫なの？」
「ねぇ、ニノ？ニノってば…」
俺が肩を叩いても嘆いたままのニノはそのまま、ズルズルとしゃがみ込む。
慌てて、その脆い身体を受け止める。
そのまま大ちゃんの隣に座らせて、俺もその横に座る。
「まだ分かんないって。症状的にはいつも通りだったから、恐らく症状が強く出たんだろうって」
おもむろに話し始める大ちゃんは、あの時のように心がなくなってしまったようだった。
俺の顔を見ることも、その隣に居るニノを見るわけでもなく。
翔ちゃんが居る処置室の扉を呆然と見つめている。
「いつもよりフラッシュバックの時も辛かったと思う」
この言葉がよりによって一番苦しんでいるはずの大ちゃんを更に苦しめた。
「俺、ダメだよな…ちゃんと傍に居るって決めたのにさぁ。翔くんにまたこんな思いさせてよ」
泣かないで。苦しまないで。
大ちゃんがそんな顔してたら翔ちゃんが悲しむよ。「笑ってよ、智くん」って。
「相葉ちゃん！」
「和！」
走って来た二人は嘆くニノ、呆然としている大ちゃんを見てまた顔を歪ます。
「大丈夫。翔ちゃんだよ？翔ちゃんなら絶対大丈夫だから。俺たちがこんな顔してちゃびっくりしちゃうよ」
俺が翔ちゃんにもらった言葉。
俺にしか出来ないこと、ちゃんと伝えるから。
「相葉ちゃんは強いなぁ、俺も翔くんに心配は掛けられねぇ。だから……もう大丈夫だ」
「雅紀の言う通りだな」
「相葉さんのクセに。ほんとにこういう時だけ偉くなって。でも一人で突っ走って行かないで下さいよ」
無理に笑っても無駄だ、そう突き放されるかもしれないとも思った。
でも俺のこの言葉だけで、この四人にはちゃんと伝わったよ。翔ちゃん。
『翔ちゃんが？何言ってんの？冗談も大概にしてよ、風間ぽん』
『そんなの絶対ウソだ。俺は信じないから』
『翔ちゃん、翔ちゃん。どこに居るの？』
あの時よりも強くなれたかな？
翔ちゃんにもらった言葉、俺はいつだって覚えてるから。
忘れられるわけないよ。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
