95 いとも簡単に。 ページ36
side.M
「俺、救急車呼ぶわ。翔さんのこと頼む」
抱えていた翔さんを雅紀に預ける形で翔さんの部屋を出て、救急に電話を掛ける。
それと同時に大野さんを呼びに行こうと部屋を開ける前に寝巻き姿のまま、携帯と上着だけを手にした大野さんが出てくる。
和と風間くんも俺たちの騒ぎに気付いたのか、リビングまで翔さんを運んでくれた。
救急車が到着するまでの間も、俺たちは必死に呼び掛け続けたが、翔さんの意識は完全にぷっつりと消えてしまった。
「いつもの過呼吸なら一時的に意識を失くすだけだけど…今日はいつもと何か違ったんだ…」
それは雅紀の小さな声で、沢山の涙を浮かべて話す彼は直ぐに両手で顔を覆ってしまった。
「俺がもっと早く気が付いてれば良かったんだ。ほんとにごめん」
どこか嫌な予感がしていたんだ。
直ぐに翔さんの様子を身に行けば良かったものを俺が躊躇ったばっかりに。
「松潤は悪くないから。誰も悪くないから。自分のこと責めちゃダメ。翔くんなら大丈夫だよ」
涙を隠すようにしている雅紀の背中を擦りながら俺に声を掛けたのは風間くん。
「そうです、風間くんの言う通りです。翔ちゃんなら大丈夫です。信じましょ」
翔さんの手を握り続けている和が頷く。
「あっ、ねぇ翔ちゃん！翔ちゃん分かる？」
先程まで落ち着きを見せていた和が大きな声を出して翔さんの肩を叩く。
「どうした？ニノ」
「ヤバい…さっきまで脈拍はまだ許容範囲だったんだけど、急に下がってきた…」
大野さんも雅紀も皆んなで必死に声を掛けるも、翔さんの意識が戻ることはなく、救急車に運ばれる。
付き添いで大野さんとニノが付いて乗り、俺は雅紀と風間くんを乗せて直ぐに車を出した。
『えっ、翔さんが？』
『翔さんに何かあったのかよ！』
『なんで、なんで翔さんが…』
あの時の哀れな俺の姿が蘇る。
ただ翔さんに憧れて、その生き方に優しさに惚れた俺は貴方の苦しみを何一つ理解していなかった。
今なら少しは分かるはずなのに。
貴方の苦しみに寄り添おうと傍に居ると決めたはずなのに。
ただ病院へ向けて走らせる車の中の空気はどんよりと重たいもので、誰一人として口を開く者はいなかった。
翔さん、お願いだから俺達の前から居なくならないで。
俺達の前から居なくなろうとしないで。
何があっても離さないと決めた手はこんなにも簡単にするりと抜け落ちていく。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
