78 途絶えた原拠。 ページ3
side.N
静かに部屋に入って来た大野さんは俺の顔を見るなり、ふふっと笑って隣に座る。
あれから、どれくらいの時間が経ったのか。
時計を見ていないせいか全く分からない。
それでも乱れた心を落ち着かせるには充分すぎる時間だった。
「今頃 仲良く話してる頃だから。あんまり思い詰めんなよ」
聞き慣れた声がすっ、と入ってくる。
心の内に秘めた想いを口に出さずとも理解することが出来るのは共に重ねてきた年月が証明している。
「相葉さんを追いかけるはずだったのに、全然動かなかったんです」
俺なんて……
そう続けようとした俺を遮ったのは大野さんだった。
「俺、普段から何もしてないしさぁ、ニノのこと凄いなって。いつも助けられてんなぁって思ってた。それと同時に俺ももっと頑張んなきゃって」
日頃、多くを語らない大野さんがスラスラと流暢に話す。
優しい顔をして話す大野さんがそんな事を考えていたとは露ほども思わなかった。
「おじさんは急にらしくないこと言い出すんだから」
俺はそう言っていつもの様に悪戯な笑みを浮かべる。
平常心を取り戻した俺が最初に頭を過ぎったのは翔ちゃんと事の発端だった。
「翔ちゃんのこと起こしてないでしょうね？」
「当たり前だろ。翔くんが起きないように抜け出して来たから」
翔ちゃんが潤くんのあの言葉を耳にしていないことに安心する。
もし聞こえていたらと想像すると、ゾッとする。
「それじゃ、毎月振り込んでくれる見知らぬ人は？貴方なら知ってるんでしょ？」
まぁ貴方が知ってなきゃ怖いけど。
その言葉の通り、頷く大野さん。
「あれはひまわり園の真央先生が俺と翔くんが二人で暮らしてる頃からずっと援助してくれてたんだ。でも、ついこの前 先生が病気で亡くなったって連絡があってさ」
鈍器で殴られたように頭が働かない。
手が震えて、唇が震えて小さく息が漏れる。
「翔ちゃんは知ってるんですか？」
頷く大野さんに何も言えなくなる。
「いつ？いつ知ったんですか？」
「通夜の前日に風間くんから連絡があってさ。翔くんに伝えるかは俺に任せるって、そう言われた。でも翔くんにとってはかけがえのない人だから、ちゃんと伝えたよ」
辛すぎるこの現実を翔ちゃんがどうやって受け止めたのか。
いつも近くに居たはずなのに、その悲しみに全く気付かなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 357人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
