76 和解の道のり。 ページ1
side.A
これ以上 涙を流す姿を松潤に見られたくなくて慌ててキッチンに隠れた。
泣きたいのは俺じゃないのに留まることを知らない涙は溢れ続ける。
それを隠そうと必死に戸棚を叩いて音を出す。
それからすぐに大ちゃんが降りてくるのが分かった。
松潤と話しているのも全て聞こえている訳ではなかったが、何となくは聞こえる。
「大野さん。雅紀のとこ行ってあげて。俺も後でちゃんと謝るから。だから今は」
「分かってるよ。俺に任しとけ」
自分のことより、あの場から逃げてしまった俺に気を遣う松潤は昔から変わらない優しさを持っていて。
そんな彼が一杯いっぱいになるほど悩み苦しんで居たのに救ってやれなかった。
そう考えると心が痛む。
「雅紀、自分のことは責めなくていい」
大ちゃんの力強い声が聞こえて顔を上げる。
「でもね、大ちゃん。俺、松潤が悩んでたのに気付かなくて、それなのにもっと傷付けるようなこと言っちゃって」
また零れ落ちる涙を拭おうとすると、大ちゃんが俺のその手を止める。
「泣いたらいい。我慢なんてしなくていいから」
俺の心をいとも簡単に見透かす。
でも、そういう大ちゃんは泣いてるの？
いつも冷静で翔ちゃんのことにも俺らのことにも直ぐに気付く貴方はいつ涙を見せるの？
「ここには五人も居るんだから。何とかなるから。雅紀は雅紀らしく居てよ」
こうしていつも俺達のことばかりで。
「大ちゃんも大ちゃんらしくね」
俺にはそう声を掛けるのがやっとなのに。
大ちゃんは俺の肩をポンポンと叩くと俺の腕を引っ張って行く。
そのままリビングに連れて行かれると、さっきと同じように座っている背中があった。
「松潤は諦めたわけじゃないんだよ、雅紀」
引っ張っていた手を離して俺を見つめる。
混乱する俺を見かねて「なぁ？松潤」と話を振る。
その背中が動いて、彼の目が俺を捉える。
「最初からそのつもりだよ、雅紀ってば早とちりなんだから」
ニヤリと笑う松潤はいつも通りの松潤だ。
「さっきはごめん。つい熱くなって、相葉くんに最低なこと言って」
律儀に昔の呼び名を使う松潤はしっかりもので、俺の目の前で頭を下げる。
慌てて頭を上げさせる。
「俺も松潤が悩んでること気付かなくて、それなのに勝手に早とちりして酷いこと言ってごめん」
顔を上げれば泣きそうな松潤の顔があった。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
